「うーむ、困りましたぞー……」 「………困った」 通る者の姿とて無き険阻な山間。 道無き道を、二つの影がとぼとぼと歩いていた。 一人は子供と見紛う容姿を思案気にしかめ、もう一人は我関せずといった顔つきである。 「むむむ……ねねの手に入れたこの地図によれば確かこちらで良かった筈……」 「………」 傍目にもボロボロな布地図を広げ、小さい方が可愛らしく唸りを上げている。 「あの地図屋めー……まさかこの音々音さまに贋物売りつけやがったですかー!」 「………………迷った?」 「わふん!」 二つの影に付き纏っていた小さな影が、気の抜けた泣き声を上げる。 大きい方の何気ない呟きに、小さい方の地図を持つ手がカタカタと震え始めた。 「……うううー! こ、この陳宮一生の不覚! 恋殿お許しくだされー!」 地面にへたり込んで自分を責め始めた小さい方―――小柄も小柄、小さな身体を更に縮めた少女が泣き喚く。 その様子を茫とした瞳で眺めていた大きい方―――赤髪に褐色の肌を持った少女は、手に提げた得物を唐突に構えた。 身の丈を遥かに超える巨大な凶器の不吉な唸りに、小さい方の少女が大仰な身振りで後ずさる。 「れ、恋殿ー!? ま、まさか迷子の罪を問うてねねをその戟で……!」 「………ちんきゅー、セキト。下がる」 「わふ?」 落ち着き払った……感情の欠落した様な声が、小さな少女の震えを止めた。 一人と一匹を背後に庇いつつ、その身に似合わぬ長大な武器を肩に乗せた少女は周囲の岩山に問うた。 「………誰?」 応えは無く、殺伐とした気配だけがその密度を高める。 「れ、恋殿ー………」 「…………大丈夫。恋が守る」 しがみ付いて来る少女を優しく引き剥がす声に動揺は無い。 「……………隠れてないで、出て来い。来ないなら、そのまま去れ」 淡々とした物言いに、岩陰から湧き出す影、影、影。 「―――――――――」 一言足りとも発しないその影達は、皆一様に黒い装束を纏っていた。 大小様々な得物を携え、遠巻きに二人を囲んでいる。 しかし、少女に目立った反応は無い。 「―――――――――来るなら、殺す」 肩に担いだ方天画戟を握り直し、少女―――呂布奉先は、やはり淡々と呟いた。 隻腕の御遣い 五 「黒山賊?」 耳慣れぬ言葉に、北郷一刀は鸚鵡返しに呟いた。 ここは漢帝国首都・許都の中央宮城、玉座の間――――その主である曹操が主催する朝議の席である。 集まった面々は武官代表である春蘭・秋蘭の夏侯姉妹、文官代表の桂花、稟、風―――― 国を代表する重鎮が一堂に会したと言って差し支えない、堂々たる顔ぶれである。 そんな中、首都の警備隊長という比較的地味目な役職を任されている一刀は、主である曹操の隣に席を連ねていた。 現在は負傷により休職中の一刀だが、今回の朝議が公式のものではなく私的な検討会である事から、 出席を求められた時はそれほど気兼ね無く参加する事が出来た。 席次といい対応といい、異例と言うより殆ど常識外の待遇だが、それを咎める者は誰も居ない。 「ええ、冀州常山を根城に暴れ回っている賊徒の集団よ。かつての黄巾賊の乱に乗じて蜂起した連中の生き残りね」 一刀の問いに、斜め横に座った玉座の主―――華琳が笑みを湛えて答えた。 ここ暫くは鬱々とした表情が目立ったが、久しぶりに機嫌が良い様だ。 「ああ、そう言えば……」 左目の下から斜めに走った刀瑕を撫でながら、一刀は朧げな記憶を頭の隅から引っ張り出した。 黒山賊。かつて“元の世界”で読んだ三国志の本にも、そんな名前があった。 大した記述も無く、それほど重要視されていなかった気がするが―――それが現実ともなれば、話は別だ。 「かつては数万にも及ぶ軍勢を組織し、方々を荒らし回ったそうですが……。  現状ではおよそ三千程度にまで縮小し、活動もそれに応じて小規模なものへと切り替わりました」 報告書をすらすらと読み上げる稟の理知的な声が響く。 「縮小の直接的な原因は黒山の前首領―――張牛角が死亡した事による組織の一時的な瓦解と袁紹からの攻撃ですが、  現在はその跡を引き継いだ緒燕……今は張燕と改名しているそうですが、その人物によって統率されています」 「張燕、か」 確か、史実では官軍すら討伐出来ず、逆に将軍として封じられたほどの人物である。 但しこちらでは反董卓連合には参加していないし、その他の情報にも色々と食い違いはある様だ。 (歴史に関わってはいてもそれほど大きく影響した訳じゃないから……なのか?) 既に分かっていた事だが、あちらの世界とこちらの世界では、大筋の歴史以外ではかなりの隔たりが存在する。 一刀の知る三国志の英傑達が、目の前の少女達に変わっている様に―――― 「たった三千の割に、鎮圧部隊は随分梃子摺ってるみたいだな?」 「それがただの三千だったら、それこそ一揉みに決まってるじゃない。そんな事も分からないの?」 桂花が冷笑と共に露骨な嘲りを見せるが、長い付き合いの一刀にとっては朝の挨拶と同じ位ありふれた反応だ。 むしろ負傷してからこちら、この種の言葉があまり出てこなかっただけに、逆に新鮮ですらある。 「彼奴らは主として山谷に陣を敷き、未だ帰順していない地方豪族達と連携して鎮圧部隊を退けている様だ」 一刀の向かいの席から、姉を隣に座らせた秋蘭がそう言葉を投げてきた。 こちらも普段と変わらず、何処か飄々とした雰囲気を漂わせている。 「実態は賊徒と言うより反政府組織とでも呼ぶべき感じですからねー。  戦い方も実に巧妙で、一箇所に留まらず、兵力を伏せては徹底的な奇襲・遭遇戦ばかり仕掛けてくるそうですよー」 相槌を打つ様に、一刀の隣に座る風が言葉を継いだ。やたら眠そうだが、これもいつもの事だ。 「ふーん……つまり、テロリストのゲリラ戦法みたいなモンか……」 「何だ北郷、そのろり?とかげり?とかいうのは」 一刀の呟きを聞き咎めたのか、春蘭が不思議そうな顔で聞き返してくる。 「いや、こっちの話……ともかく、その張燕って奴は余程の戦上手らしいな」 「あんた、人の話聞いてたの? そうだってさっきから言ってるじゃないの」 「はいはい悪うござんしたね」 「っ! ひ、人が少し優しくしてればつけあがって…!」 事ある毎に噛み付いてくる桂花を適当にあしらい、一刀は手元の竹簡を紐解いて考えを巡らせる。 敵はこれまでの様に武勇や数を恃んだ勢力ではない。 しかも主体がゲリラ戦というなら、ただ大軍を投入すれば良い訳でもない。 (なら、鍵を握るのは) 黒山賊のこれまでの布陣は、一度として同じ場所ではない。 この時代でゲリラ戦を可能にしているのなら、かなり卓抜した情報網を持っている筈。 矢面に立つのは同盟相手の豪族達であり、彼らは情報を売り、その見返りとして兵力と兵糧、そして安全を買っている。 ならば―――― 「………ふふっ」 「ん?」 気付けば、華琳が考え込む一刀の顔を覗き込んでいた。 無断外出の日以来、妙に感情の起伏が激しい時もあったが、今日はそれなりにいつも通りに見える。 「もう、大分調子は戻って来た様ね? 一刀」 「そうだな、まあ流石にこんだけ経てば」 そう言って、一刀は垂れ下がった左袖に視線を落とす。 身体の左側が軽い事に対する違和感はまだ消えないが、いい加減慣れ始めてもいた。 「それで、何か妙案は浮かんだの?」 「――――いや、別にそういう訳じゃ……」 言葉を濁した一刀を、華琳は「お見通し」と言わんばかりの瞳で射抜く。 「そう? 私は貴方の発想を買ってるんだから、しっかりなさい」 「あ、ああ」 悪戯っぽい華琳の笑顔に、一刀は頬痕を掻いて視線を逸らす。 その様子をじっと見ていた春蘭が、やおら勢い良く机を叩いて立ち上がった。 「と、とにかく! その残酷族とやらをすぐに蹴散らしてしまえばそれで良いのだろう!?」 「何処の未開部族だ、それは」 春蘭の珍妙な記憶違いに、思わず一刀は突っ込んだ。 「黒山賊だ、姉者」 「はぁ……」 大広間に、微苦笑を刻んだ秋蘭の指摘と、こめかみを押さえた桂花の溜息が重なった。 午前の定期巡回を終え、凪は警備隊の本部隊舎へ戻ってきていた。 「楽進さま、お疲れ様です!」 「うむ、しっかりな」 入れ替わりに出動していく隊員達に頷きを返しながら、凪は奥の部屋へと足を踏み入れる。 「――――――ふぅ」 後ろ手に扉を閉じ、そのまま背中を預けて短い溜息。 目の前には並んだ三つの机と、その奥にもう一つ、几帳面に整頓された大きな机がある。 (沙和と真桜は、まだ帰っていないか) 自分以外には誰も居ない、静まり返った隊長室。 騒々しい親友達の顔を想像しながら、凪は真っ直ぐ奥の机―――今は無人の隊長席に向かう。 中隊を率いる士官の場合、通常は一般隊員達と同室になる慣習だが、北郷隊に関しては多少の例外がある。 隊長を含め、四人が共に戦時は武将として華琳の指揮下に入る為、ある種の特別待遇がなされていた。 その隊長である一刀が休養に入ってから、そろそろ二ヶ月が経とうとしている。 その間、直属の部下である凪達三人が持ち回りで隊長業務を引き継ぎ、隊の活動を維持していた。 「ん………しょっ、と」 壁に据えられた棚から布巾を取り出し、凪は隊長席の机を丁寧に拭き始める。 元から埃一つ落ちてはいないが、これは隊に入った頃からの凪の日課の一つである。 (………………隊長) 念入りに磨きを掛けながら思い浮かべるのは、やはりある一人の少年の事。 戦火の中で出会い、共に行動し、その後はずっと自分達の前に立ち、ここまで導いてくれた人。 誰にでも優しくて、偉いくせに気取らなくて、色んな女性に囲まれているのに鈍感で――― 誰かを護る為なら、平気で無茶な事をしてしまう、そんな人。 「………っ」 きゅ、と凪は布巾を握り締める。 次から次へと湧き出す連想が、嫌でも“あの瞬間”を記憶から呼び起こしてしまう。 顔の瑕。左腕。――――痛々しい、笑顔。 あの時ほど、自分の無力を感じた事は無かった。 守りたいと、そう思った筈なのに。 守ると、そう決めた筈なのに。 なのに、私は―――― 「あー、つっかれたー! およ? 何や凪、先に帰ってたん?」 「ただいまー! あれー、凪ちゃんまたお掃除ー? いつもながらマメなのー」 「っ!?」 思考に没入している内に、いつの間にか他の二人が帰ってきていた。 途端に騒がしくなった部屋に、いつもの空気が戻ってくる。 「は、早かったな、二人とも」 微妙な狼狽を覚えながら、凪は布巾を棚に戻した。 「何慌てとるん。………ははーん」 「べ、別に何でもない」 「ふぅーん? へぇー? ほぉー?」 「だから、何でもない!」 さっさと話題を打ち切ろうとする凪に、真桜と沙和は顔を見合わせ、同時にニヤリと笑った。 「どーせ隊長の事考えてたんやろー? そんなんバレバレに決まっとるやん」 「ねー? 沙和達相手に隠し通せると思ってる凪ちゃんは甘々なのー」 「なっ……!」 「にゃっはっはー」 「うふふー」 ひとしきり凪をからかった二人は、自分の机に戻って簡単に進捗記録を記入し始める。 顔を真っ赤にした凪も、思い出した様に席に就いた。 「あ、そや。ウチ、午後は非番やから」 「沙和もなのー。ごめんねー凪ちゃん」 「ああ、分かってる………あんまり、根を詰め過ぎるなよ?」 ここ最近、真桜と沙和は頻繁に仕事を抜けては、ある用事に掛かりっきりになっていた。 無論、それで本来の任務が疎かになっている訳ではないが、昼間に働けない分は夜勤などで立て替えている。 何をしているのかは凪も承知の上だが、二人の傾注振りには多少の危惧もしていた。 「大丈夫やってー、もーすぐ出来上がるんから。もうあんま時間も無いねんし」 「うんうん! 珠のお肌の大敵だけどー、沙和頑張っちゃうのー! おー!」 「おー!」 「………やれやれ」 元気良く応える二人に、大きな羨望と、少しの疎外感を覚える。 二人は二人に出来る事で、隊長の力になろうとしている。それに比べ、自分はどうなのか。 何もしていない、何も変わらない―――そんな事を考えながら、凪は改めて進捗記録に向き合う。 しかし、全くと言って良いほど集中出来ない。目の前の文字が、やけに遠い。 (駄目だ、こんな事じゃ………隊長に笑われてしまう) 中天に昇った陽が、窓を通して眩しい光を机まで送り届けてくる。 何故だか妙に、筆を執る手が重かった。 「妙案、ねぇ」 自室に戻った一刀は、椅子に深く身を沈めて嘆息した。 結局、あの後は現状報告と対症療法的な方策、市政に関する諸々の施策が検討され、散会となった。 黒山賊については、数日前に現地へ向かった霞を中心に対策が練られるらしい。 (送り出した時はその辺の話をあんまり聞いてなかったしな……) 只の賊徒、としか彼女は言っていなかったから、要するにその程度の認識でしかなかったのだろう。 そういう意味では、一刀自身も朝議に出て初めて、その脅威を意識した事になる。 「……そう簡単に浮かべば苦労は無いんだけどな」 ぼやきながら、背もたれから身体を起こして頬杖を突く。 思い出されるのはやはり、あの含みのある微笑。 (発想とか言われてもなー……) それでも期待されている以上、応えなければ男が廃る。 (乗せられてるのかな、俺) 例えそうでも悪い気はしない……が、素直に頷くにも抵抗がある。 あの誇り高い少女は、虚偽や不実を何よりも嫌う。 そして一刀は、自分の無力故に少女の期待を裏切ってしまうかも知れない事こそを恐れていた。 「――――だからって、立ち止まってもいられない………な!」 右手で頬を張り、気合を入れ直す。 悩む時間はもう過ぎた。何も出来ずに寝ている時間も、もう十分だ。 なら、後は行動あるのみ。 「さて、そうと決まればまずは……」 呟きつつ、一刀は出しっ放しの筆を手に取る。何にせよ、思案を纏めなければ動き様も無い。 そして竹簡に筆を走らせようとした瞬間、部屋の扉が音を立てて開かれた。 「こらー! 北郷一刀ー!」 「………げー」 開口一番、罵声と共に現れたのは、特徴的な頭巾を背中に垂らした少女だった。 「何だよ、桂花か。何か用か?」 「何よその態度は!? 人がせっかく忘れ物を持って来てやったっていうのに…!」 そう言う桂花の腕には、幾つかの竹簡が束になって抱えられている。 確かに、先程の朝議で配られた資料だ。 「あー、悪いな。その辺に置いといてくれるか?」 「自分で取りに来なさいよこのズボラ種馬! 穀潰しの分際で踏ん反り返ってるんじゃないわよ!  ……って言うか、何なのよこの部屋は!? 足の踏み場も無いじゃないの! 少しは掃除しなさいよ!  おまけにあんたの臭いが充満してて居るだけで妊娠しそうだわ! ホンット、最っ低!!」 暴言を雨霰と射ち出しながら、言葉に反して桂花はずけずけと部屋を突き進んでくる。 「へいへい。…足元、気を付けろよ」 桂花の言葉の通り、部屋は惨憺たる有様である。 机には書き掛けの竹簡や書類、書庫から持ち出した書物が山と積まれ、今にも溢れ出しそうになっている。 少し目を移せば、床にも棚にも至る所に資料や書付の類が散乱しているのを見て取れるだろう。 リハビリを始めてからの一刀の部屋は、不精な春蘭すら目を剥く程の惨状と化してしまっていた。 (流琉には怒られっ放しなんだが………) 片しても片しても片付かないと、腰に手を当てて注意してくる年下のしっかり者の顔を一刀は思い出す。 ただ、流琉には悪いが、今は体裁に構っていられる余裕も無い。 「しかし、何でお前が来たんだ?」 ようやくの事で机まで辿り着いた桂花に、一刀は純粋な疑問を投げた。 有体に言って、自分が忘れ物をしたからと言って届けに来てくれる様な奴ではない。 一刀の問い掛けに、桂花は歯を剥いて睨み付けてきた。 「ふん、誰がその為だけに来たなんて言ったのよ! 私はあんたに貸した本を取り返しに来たの!  手間を省いてやったんだから少しは有り難く思いなさいよ!」 踏ん反り返る桂花に、一刀は納得した様に頷いた。 「まあ、そこまで親切じゃないよな。桂花は」 「………あんた、人に持って来させておいてその態度なの?」 「へいへい、ありがとさん。で、悪いんだけど」 「何よ」 「あれ、もう暫く貸しといて貰えるか? まだ読み切れてないんだよ」 「はぁ!? ふざけないでよ!」 「そこを何とか」 片手で拝む一刀を、桂花は憤然と睨み付け――――深い溜息を吐いた。 「………はぁ。まったく……これじゃ只の骨折り損じゃないの」 「悪いな」 「もう良いわよ別に……あら?」 竹簡を机に置いた桂花が、そこに積まれていた別の竹簡を手に取った。 開きかけのそれに少し見入ると、桂花は何とも言い様の無い顔で一刀を見遣る。 「……何これ、読めないじゃないの」 「ん? ああ、それか」 難しい顔の桂花から竹簡を受け取った一刀は、得心したとばかりに頷いてみせる。 それもその筈で、竹簡には漢字に混じって平仮名、片仮名、アラビア数字――― 要するに、かつて一刀が暮らしていた世界の文字で内容が記されていたからである。 考えを形にする上では、不慣れな漢文よりも慣れ親しんだこちらの方が遥かに都合が良かったのだ。 「変なの……何、この蚯蚓がのたくった様な落書き? あんた、未だに文字も満足に書けないの?」 「お前な、今まで何回俺の報告書読んでると思ってんだよ………これは俺の国の文字だよ」 「あんたの国の? へぇ……」 「これが平仮名、これが片仮名……まあ、漢字を簡略化した文字で、こっちのは数を表してる。  勿論漢字もあるんだけど、俺の国だと他にも色んな奴を組み合わせて使ってるんだ」 一つ一つ文字を指し示しながら説明する一刀に、桂花は珍しく感心した顔つきで竹簡を覗き込む。 「そう言えばアンタ、前に東の果てから来たとか何とか言ってたっけ……。  で、何て書いてある訳? 所々は読めるけど………狼煙、光、通信?」 「ああ、街と街……拠点と拠点を繋ぐ通信中継所の案だよ。前に華琳に提案した狼煙台があっただろ?  あれの発展版で、煙以外にも鏡と炎を使って信号を送れる様にしたいんだ。後は新しい符牒とか」 「ふぅん………種馬の分際で良くもまあ次から次へと妙な事考え付くわねあんた―――――って、ひゃあ!?」 のめり込む様に身を寄せていた桂花が、密着しそうな程近付いた一刀の顔の熱を感じて飛び退いた。 「あ、馬鹿そっちは!」 「え、あ、きゃああああっ!?」 一刀の警告も虚しく、桂花は思い切りバランスを崩して倒れ込みそうになる。 「――――っ!!」 一瞬の間を置いて、激突音と共に積まれていた書物が蹴散らされ、盛大に埃が舞い上がった。 「ひゃああああああ………って、あれ? 痛くない………?」 思わず目を瞑った桂花は、予想した衝撃がいつまでも訪れない事に不審を覚えて恐る恐る瞼を開いた。 「けほっ、けほっ、痛つつ……。  ―――ったく、だから気を付けろって言ったのに」 「な」 床に散乱した書物に埋もれて、一刀が目の前に居た。 「まあ間に合って良かったけどな。怪我無いか? 無いな。良し、さっさと退け」 「え」 そう言われて、ふと今の状態に気付く。 自分の身体が、一刀の腕の中にある。 目の前に、一刀の顔が大写しになっている。 それを認識した瞬間、桂花の頭の中で何かが切れた。 「ひっ……きゃああああああああーーーーっ! こ、この痴漢! 変態! 全身精液男!  何が目的よ! 一体何なのよ! 良いからもう死になさいよーーーー!!」 「な、おい! 暴れんなっての……ぐあっ!?」 狼狽の極みにある桂花に一刀の声は届かず、飛んで来た拳が容赦なく顔面を襲う。 桂花はわたわたと立ち上がると、一目散に扉へ向けて走り出した。 「この強姦魔! 何考えてるのよ! どうせ頭の中まで汚い毒液が詰まってるんでしょ!?  ちょっとは見直した私がどうかしてたわ!! もうあんたなんか知らないわよこの馬鹿ーーーーーー!!!」 捨て台詞すらも置き去って、桂花は部屋の外へと消えてしまった。 「………何なんだ、ありゃ」 間一髪で下に滑り込んだというのに、何故罵倒されなければならないのか。 腑に落ちない一刀は首を傾げ、桂花が走り去った扉を呆然と眺める。 それから、ゆっくりと台風が過ぎ去った後の様な部屋に目を留め、一度だけ溜息を吐いた。 「取り敢えず、片付けるか……うう、済まん。流琉」 素直に言う事を聞いておけば良かったと、一刀は今更ながらに深く反省した。 「っくしゅん!」 「あれー? 流琉、どしたのー? 風邪ー?」 「んん……分かんない。でも別に調子は悪くないよ?」 鼻を啜りながら、流琉は不思議そうに首を傾げた。 「気を付けなさい、罹ってからでは遅いのだから。季衣もよ?」 「はい」 「はーい!」 朝議の後、華琳は季衣と流琉の二人を連れて城の各部署を回っていた。 本来であれば報告を待てば良いのだが、たまに抜き打ちで働きぶりを視察している。 そういう意味では華琳の身は極めて軽く、親衛隊を率いる二人は必然的に付いて回る事になるのだ。 本当はそのついでに一刀が忘れていった資料を届けようかと思ったのだが、桂花に止められてしまった。 (………まあ、別に、機会はあるわ。幾らでも) 妙にそそくさと竹簡を掻き集めて出て行った桂花の背を思い出しながら、華琳は次の視察候補を脳裏に並べる。 (法務……は、既に見たわね。兵站……は、今のところ問題無し。  なら………警備、か) 城内の警備も、親衛隊が固める本殿を除けば当然の様に警備隊が行っている。 「…………一刀の復帰も、そろそろ考えなければね」 「…え?」 「華琳さま、それホントですか!?」 口の中に留めた筈の独り言は、後に続く二人にも聞こえたらしい。 たちまち食い付いてきた少女達に、華琳は仕方なく応えた。 「ええ、もう大分調子も戻った様だし……」 「うわーい、やったー! それじゃまた兄ちゃんと食べ歩き出来るね!」 「こら、季衣! もう……。でも、そうしたらまずはお片付けさせないと……華琳さまも知ってますよね?  今の兄様のお部屋、ほんっとーに酷いんですよ!?」 「ああ、あれね」 拳を握って力説する流琉に、華琳は同意を込めて頷いた。 確かにここ最近は、部屋に行く度に惨状の度合いが酷くなっている。 「何度注意しても綺麗にしてくれないんですよ……それに、駄目だって言ってるのに書庫で寝たりするし。  季衣まで真似しようとするし」 「ぼ、ボクそんなのやってないよ!?」 「いーえ、やってました! 兄様は兄様で本に夢中だし……まったくもう」 憤然とした様子の流琉に、微苦笑を浮かべる華琳。 (こちらに来た頃は読み書きも満足に出来なかったのに、ね) こちらの世界の住人ではない一刀がこんなにも馴染んでしまった事を、嬉しく思う自分が居る。 考えてみれば、一刀は常に自分を驚かせ続けてきた。 何も出来ないと思っていた少年が、体当たりで警備隊を束ね、その旧弊を払い除け。 試しのつもりで付けた部下をいつの間にか掌握し、身柄を任せた張三姉妹とも友誼を繋ぎ。 そして、遂には命すら、救われてしまった。 (助けたつもりが、逆に助けられるなんてね) 自身の庇護下にあった筈の男が、この国と、仲間と、自分の心に確かな根を張っている。 それをいつしか、どうしようもないほどに心地良いと感じている自分が居た。 連想が連想を呼び、思わず指先が唇をなぞる。 あの夜の事は誰にも話していない。勿論、一刀自身も気付いては居ない筈だ。 今朝だって、自然に話せていた……筈。 「華琳さまー、どうなさったんですかー?」 「…っ!?」 「ご気分が宜しくないんですか? でしたら……」 「だ、大丈夫よ。……少し、考え事をしていただけだから」 心配そうに見上げてくる二人を直視出来ず、華琳は足早に廊下を進む。 「あ、華琳さまー! 待ってくださいよー!」 「何処に行かれるんですかー?」 「……っ、そ、そう! 華佗の部屋へ、一刀の復帰について意見を聞きに行こうと思って」 咄嗟に放った言葉に、半歩遅れて従う季衣と流琉は至って純粋に喜びの顔を見せた。 「華琳さま! 早く行きましょうよー!」 「季衣ったら、はしゃがないの! ……華琳さま、行きましょう?」 騒ぐ季衣も、嗜める流琉も、その面にあるのは共に笑顔。 この娘達の中にも、一刀が居る。 「………ええ、行きましょうか」 胸に生じた僅かなざわめきに、華琳は敢えて気付かぬ振りをした。 結局、部屋の整理は早々に諦め、自然と一刀の足は城の一隅へと向かっていた。 歩く事暫し。辿り着いた先は、見上げるほどに巨大な書庫である。 「まあ、部屋の事は後で元凶に責任を取らせよう」 頭巾の軍師の小憎らしい顔を思い浮かべつつ、重々しい合わせ扉を押し開く。 陽光が大敵である為、日中でも薄暗い庫内は、隅から隅まで古い書物と埃の匂いに占領されていた。 それでも、文字を視認出来ないほど暗い訳では無い。 (さて……この前はここまで目を通したから………次はこっちからか) 一刀が足を止めたのは、主に戦術や戦略に関しての書物が収められた書架である。 『孫子』。『呉子』。『孟子』。『韓非子』。『尉繚子』。『司馬法』。『三略』。『六韜』。 流石と言うべきか、一刀でさえ耳にした事のある有名な書から全く知らない巻物まで、かなりの蔵書が揃っている。 この二ヶ月間、それらを貪る様に読み尽くし、更には華琳から借りた、彼女自身の著した兵法草案にまで目を通した。 かつて華琳や秋蘭から無理矢理読まされた物や、初めて読む物も加わり、結果として部屋はあの有様だ。 それでも足りず、灯を持ち込んでは何度か書庫で夜を明かした事もある。 かと言って、その全てを理解した訳でも、一刀自身がそこから何か新しい戦術戦略を考案した訳でも無い。 (この世界での俺は、紛れも無い異邦人―――つまりは常識の外に居た人間だ) 如何に風土に慣れようと、人と心を通わせようと、異なる世界に属していた一刀はそもそもの立ち位置からして違う。 目の前の確かな現実であると同時に、何処か茫洋として掴み所の無い、不確かな幻の様にも思える非日常。 そんな朧げな歴史知識や、娯楽物語の上でしか知らなかったものに、確かな実体を与える行為。 実際に戦う人々の考えが、一体どんな礎に根差しているのか。 その根本を、一刀はまず知ろうとしたのである。 (これまでは何も知らなかった。知ったつもりではいても――――本当は知ろうとも、しなかった) 戦場に立つのなら、力が無いという言い訳は通じない。 あの日、左腕に食い込んだ刃の痛みと共に、それをはっきりと理解した。 だが、確かに自分には武力も知力も足りない。 指揮能力や実務能力も、第一線の軍師達に比べればお話にならない。 ならば、北郷一刀という存在のアドバンテージは何処に在るのか。 (俺は――――) 「……………………じー」 「うおあ!?」 いつの間にか、間近で風が一刀を見上げていた。 「……何やら真剣な顔つきでしたので思わず風もじっくりとっくりと見入ってしまいましたー」 とろんとした眠たげな瞳が、上目遣いに一刀の顔を覗き込んでくる。 「………いつの間に」 「お兄さんが書棚の本をなぞりながら何か考え事に没頭していた時からですかねー」 「殆どここ来た時からじゃねぇか!」 「………ぐぅ」 「寝るな!」 「おおっ」 思わず突っ込みを入れた一刀に、風がわざとらしく驚いてみせる。 その悪びれない様子に、一刀は溜息を吐いた。 「お兄さん」 「……はぁ、何」 ぞんざいに応える一刀だったが、風の様子は今までとは一変していた。 傍から見れば有るか無きかの硬さだが、常に悠揚としている風には非常に珍しい表情だ。 「また良からぬ事を考えていましたねー?」 「………」 風らしからぬ鋭い切り込みに、一刀は言葉を失った。 「図星ですか。まあお兄さんが風に隠し事なんて百年早いですねー」 「バレバレだぜぃ、兄ちゃん」 風の頭の上で、宝ャが同意する様にぴこぴこと動く。 「いや、別に良からぬとかそういう……」 「いえー、決まってます。良からぬ事です」 何とか反論しようとした一刀を、風はぴしゃりと封殺した。 「考え事をしてるお兄さんの姿が、城に担ぎ込まれてきた時のお兄さんと重なりましたから」 「………」 「言いたくないですけど、お兄さんは何か無茶を考えてます。……そういう顔つきです。  風の言ってる事、間違ってますか?」 そう語る風の瞳が、内心の葛藤を映して揺れ動いていた。 言葉の通り、本当は口にしたくなかったのだろう。 それでも、言わずにはいられなかった。 「………俺は」 俯いて風の言葉を聴いていた一刀は、ぽつりと口を開いた。 「多分、風の言う“無茶”をするよ。これからも、きっとね」 「………お兄さん」 「分かってる。でも、今のままじゃ―――駄目なんだ」 垂れ下がった袖の上から、一刀は残った左腕を強く握り締めた。 布越しに食い込んだ爪から生じる鋭い痛みが、そこに有るものと、失ったものを同時に実感させる。 (そうだ。俺が成すべき事は―――) 失くしたものを取り戻せないのならば。 それに変わる新しい何かを、手に入れなければならない。 自分自身に留まらない、その殻を打ち破る為の力を。 無茶であろうと、無謀であろうと、その決意に変わりは無い。 でなければ――――――王たる者の、王たらんとする少女の隣に立つ資格が、無いと思うから。 「皆に心配かけるのは嫌だけど……もう決めたんだ。だから、ごめんな。風」 そう言い切る一刀の顔を、風は何処か眩しげに見つめていた。 二人と一体の間に、幾ばくかの沈黙が流れる。 むず痒い様な、居心地の悪い様な、そんな空気を振り切り、風がゆるゆると首を振った。 「………やれやれ。馬鹿だ馬鹿とは思ってましたが全くお兄さんは本当に仕方ありませんねー、宝ャ」 「馬鹿は死んでも治らねぇモンだぜぃ」 「おいおい」 さも呆れたと言わんばかりに嘆息してみせた風からは、先程までの硬さが消えていた。 「でも、風もそんなお馬鹿なお兄さんの仲間入りをしてしまいそうなのです」 「…え?」 「お兄さんがそんな調子では風が協力しない訳には行かないではありませんかー。  ……おお、つまりは初めからそういう魂胆でー? ……お兄さん、中々に策士ですねー?」 口許に手を当てた風が、あからさまな含み笑いを見せる。 飄々とした風の物言いに、一刀もまた笑った。 「そっか、風が助けてくれるなら心強いな」 「ふふふー。ではまず日常のあれこれからお助けいたしますかねー。  そうそう、お風呂なんて如何ですー? この間なんか春蘭ちゃんや秋蘭ちゃんと一緒に入っていた様ですしー」 「ぶっ!」 「おうおう兄ちゃん、ちっとは自重してるのかと思いきや………ヤルねぇ?」 「まずは優しく掛け湯からー、その後はこの身体を使って隅々まで綺麗綺麗にー……おおー」 「待て! そこまでしなくても良いから!」 冗談とも本気ともつかない風の言葉に、一刀は慌てて制止に入る。 そこで突然、何かが盛大に噴き出す音が響き、一拍置いて重い物が倒れる音が続いた。 「今度は何だ!」 「あー……もしかして」 一刀と風が、ばたばたと物音の聞こえた方へと向かってみれば。 「………やっぱりー」 「……稟!?」 案の定、床一面に広がった鼻血の海の中に稟が倒れていた。 「何で……?」 「おそらくー……風達を探しに来たのでしょうねー。  そこで風とお兄さんの会話を聞きつけ、ついつい良からぬ妄想が炸裂して」 「ああ、そうか………“風呂”に反応したのか」 「ほら稟ちゃん、しっかりしてくださーい。とんとんしますよー、とんとーん」 「ふがふが……ううっ」 「やれやれ……」 手際良く気付けを施しながら、風はぽつりと言葉を漏らした。 「きっと稟ちゃんも、気にしてたんでしょうねー」 「え?」 「帰ってきてからのお兄さんが、時々怖い顔してたから」 「………」 「でもー、お兄さんはやっぱりお兄さんのままだって分かったから、安心しちゃったんですねー」 「………そう、かな」 「そうですよー」 のんびりとした、日向の様な笑顔で頷く風。 風に介抱される稟は、何処と無く満足気な表情を浮かべていた。 「あーーーーーーー…………暇やなー」 これ以上は無いと言うほど気の抜けた声を上げ、霞はごろりと横たわった。 ここは冀州の常山に程近い邑、その平原に張られた駐屯軍の陣幕である。 叛徒達の活動が特に活発なこの地域に、霞は旗下の騎馬隊と共に派遣されていた。 (黒山賊とか言うたってなー……たかだか賊やん? 何でわざわざウチが……) 着任早々、小規模な反乱が発生し、それは即座に鎮めた。 しかし地方代官の話によれば、こんなものは日常茶飯事だという。 (面倒な話やで、ホンマ) むしろ、あの程度の賊徒に言い様にされている地方軍は腑抜けているとしか思えない。 とは言え、華琳直々の下知とあらば、従うに否やは無かった。 その分、愚痴も増えようというものだが、そんな霞の性格を知り抜いている部下達は何処吹く風である。 「あーあ……折角一刀も呑める様になったっちゅーんに……イケズやわー華琳……ううー」 頭の後ろで組んだ両手を枕に、霞は隻腕の少年の顔を思い浮かべる。 許都出発の前夜、一刀は霞の為にささやかな壮行会を開いてくれた。 凪や真桜、沙和も交えての宴会は、後から乱入してきた春蘭や軍師連中も加わり、とても騒がしいものになった。 療養中の一刀を心配させたくなくて、目的については単なる賊徒の討伐としか言わなかったが、 『霞が強いのは十分知ってるけど、無理はするなよ』 酔い覚ましと称して外へ出た一刀を追って二人きりになった時、彼はそう言ってくれた。 その言葉を嬉しく思いながらも、霞は釈然としないものを感じていた。 (無理してるんは、自分やんか) 確かに、一刀は弱い。武器を取って戦う事も、兵を指揮する事も出来ない。 だが、彼の真価はそんな瑣末な部分には無い。 それは、これまで仲間として過ごしてきた事で良く分かっている。 地道な、眼に見えない部分、武将達の行き届かない所でこそ、一刀はその力を発揮してきた。 だからこそ春蘭や秋蘭、桂花といった古参の臣下と並んで皆は一刀を認めているし、華琳も一刀を頼りにしている。 (ま、単に使えるからだけって事も無いんやろうけどなー) 人の悪い笑みを零しつつ、霞は流れる雲を眼で追った。 (不思議なやっちゃで、ホンマに) 霞の眼に映る一刀は、空の雲の様に掴み所が無い。 まさか腕を失って、それでも笑っていられる人間が居るなど、霞には思いも寄らなかった。 強いとか弱いとか、そういう次元の問題ではない。 あの笑顔にも、戦う者としての覚悟が、間違いなくあったのだ。 それを眩しく思う一方で、やはり今の一刀には無理を感じているのも確かだった。 「……ふん。帰ったらべろんべろんにして本音聞き出したるから、待っときや」 物騒な決意を固めつつ、霞は眼を閉じた。 戦の事後処理や諸々の準備は山積しているが、それは部下に任せておけば良い。 休める時に休む、それも武将としての大事な仕事である。 理論武装を完了して、霞は本格的に身体の力を抜こうとする。 (ま、何とでもなるやろ。寝よ寝よ) しかしその目論見は、僅か数寸で木っ端微塵に砕かれた。 「張遼様ーーーーーー!!!」 「…………何じゃこらぁ!」 駆けて来た兵士に罪は無いと知りつつ、霞は起き上がり様に怒鳴り声を上げた。 「伝令! 西方五里にて守備兵が賊徒と交戦中! 至急救援を請う!」 「……うっし、分かった! ――――者共、戦や! ぼさっとしとらんで早よせぇや!!」 「はっ!!」 流石に歴戦の兵揃いか、叱咤を受けて即座に動き出す兵士達。 霞もまた自らの得物―――飛龍偃月刀を担ぐと、愛馬の下へと走り出した。 (ウチの昼寝の邪魔しおった借りは――――きっちり返したるわ、釣りも込みでなぁ!!) だが、霞はまだ知らない。 これから向かう先。 ――――――その戦場で、かつての友と相見える事を。 隻腕の御遣い 五 …後編に続く