「しっかし、大所帯になってきたねぇ。俺にまで部下が出来るって、そんなに手が足りてないのか?」 「いえ、おそらくそんなことはないと思いますが・・・」 先の盗賊討伐の一件で、陳留周辺がいかに荒んでいるかが浮き彫りになり、 また、中央も各地で盗賊退治の手を焼いているという背景もあって、 華琳は刺史から州牧へと昇進することとなった。 その分負担も増えるけど身入りも大きいわけで。 いま一緒に偵察任務を果たしている楽進こと凪もその一部である。 凪は李典こと真桜と、于禁こと沙和とともに義勇兵として盗賊退治に参加していた。 しかし盗賊どもの反撃にあい劣勢に立たされていた。 そこへ秋蘭、季衣の援護とさらに春蘭、華琳率いる本隊の援軍によりこれを撃破。 それを期に曹操軍に参加し、現在三人とも俺の部下ってことになっている。 「まぁ華琳曰く、曹操軍の一将としての自覚をもっと持たせるため、ってことらしいけど・・・」 「・・・隊長は我々がいたのでは迷惑ですか?」 「そんなことはないさ。ただ人の上に立つ覚悟ってのがまだ足りてないってだけなんだ。  そんなんじゃ部下にも華琳にも迷惑が掛かるから。」 「・・・隊長は変わってますね。」 「・・・そうか?」 「えぇ、変わっていると思います。」 そんな話をしながらもきっちりと偵察をこなしている凪は本当に真面目な子だ。 Q.そもそもなぜ俺達が偵察をしてるのか。 A.黄布党が大暴れしているせいである。 各地で漢王朝に対する義憤が募り反乱が起きているってのは今まで通り。 しかしその中で急激に勢力を拡大し、しかしその実態がはっきりと掴めない連中が増えてきた。 一様に黄色い布をつけて各地で暴れる様からついた名がまんま黄布党。 党首の目撃情報は運良く季衣が持っており、あとは本拠地さえ掴めばいい、という段階ではあるのだが・・・ 下っ端を捕らえても捕らえても一向に口を割らず、結局足で情報を稼ぐしかない、という今現在。 「そこらへんに地図とか落ちてればこっちも楽なんだけどな〜」 「隊長・・・さすがにそんな都合のいい事は・・・」 「ですよね〜」 地道な作業であっても重要って言うことはわかってるんだ。 わかっていても緊張感がそれに伴うのか?と聞かれれば 答えはもちろんNO。 つまり、 「・・・!!隊長!伏せてください!」 「おぉぉぉぅ!?」 敵に奇襲も許すわけです。 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・ 「案外、都合よく転がってたりするもんだね。いや得した得した。」 偵察中奇襲にあってしまったが、凪がそれを撃退。 どうやら連絡部隊が先走った行動に出た結果だったらしい。 連絡部隊だったらもちろん情報を持っているわけで。 口頭の伝達だった連中とは違い、書状での伝達を行っていた、という点から見てもそれは本隊が近い、ということを表していた。 「隊長・・・緊張感ないですってば・・・」 「なに、これからのことを考えてもどうせ緊張なんてするだけ無駄だよ。お、真桜お帰り〜」 「戻ったで〜隊長。敵さん達、えらい数やったわ〜」 「だろうな。あらから華琳の予想通りなんだろ?だったら細かい報告は秋蘭にでもするといいさ。」 「ところで真桜ちゃん、華琳様の予想ってなんなのー?隊長はわかってるようだけど。」 「あぁ、それはやな・・・まず敵の総数から教えたるわ。その数なんと20万!ぎょ〜さんおったで。」 「ほぉ、そんなに増えたのか。」 「うはー!もの凄い大軍なのー!それって私達で勝てるのー?」 「まぁ最後まで聞きぃや。その中でまともに戦えそうなんは・・・3万くらいやないかな?」 「やっぱそんなとこか。敗残兵とかも集まってるっていう情報は前からあったしな。」 「せやねん。情報の伝達も上手くいっとらんようやったしな。あれじゃそこらの野盗とやりあうんと変わらんと思うで。」 「母体が大きくなるとその分反応もなにも鈍くなるもんだからな。」 「神出鬼没の熊も太りすぎたらただの的、ということですね。」 「・・・太りすぎたら・・・」 「・・・凪ちゃん、それとっても嫌なたとえなのー・・・」 「・・・というわけなので諸君、事前に聞いた作戦通りでよさそうなので、気を引き締めて配置につくように。」 「あ、隊長が急に真面目になったのー!」 「さっきといっていることが違うではありませんか・・・」 「なんや隊長、しまらんな〜」 「・・・・・・俺、ちょっと泣いてもいいかな・・・」 偵察から帰還した直後はこんな空気になってしまったが、いざ本隊から作戦開始の通達が来るとみんなの動きは違った。 しかしどう贔屓目に見てもあの混乱状態で華琳率いる魏軍に適うはずもないわけで。 むしろ俺達に回ってくる仕事も殆どなかったくらいだ。 我ら下っ端の軍隊に任された仕事はもっぱら陽動と敗残兵をまとめる、というものに終始していた。 実際の俺の働きといったら初めて俺の下についた部下の様子を把握するだけで一苦労で、 指示を出している間に来る報告をまとめながら新しい命令を出す、という作業だけで手一杯であった。 だからといって報告すべてが頭に入っているわけでもなかったので 本陣に戻ってみて驚くはめになったのであった。 「へ〜、張三姉妹とは聞いてたけど本当に女の子だったんだな。」 「凪が捕まえてきたそうだ。北郷には連絡がいかなかったのか?」 「え?本当なのか?あれ?俺報告受けたっけ?先に本陣に戻るとは聞いてたけど・・・」 「おいおい北郷、そんなことでどうする?部下が増えたのだからしっかりせねば部下ともども命を落とすぞ?」 「そりゃわかってるんだけどさ・・・俺が報告を全部受けてる余裕があるように見えたのか?  秋蘭たちと違って部隊を率いるのは初めてなんだぜ?」 「北郷・・・それはちょっと情けないぞ?部下の動きぐらい把握しておかなくては黄布軍の二の舞になってしまうぞ。」 「ぐっ・・・面目しだいもございません・・・はぁ・・・結局大した役に立たないまま俺はお役御免か〜」 「む?何を言っているんだ北郷?」 「え?だって今回の件で太平要術見つかったんだろ?だったら俺もこの軍にいる意味がなくなるわけで・・・」 「あぁ、そんなことをいっていたのか。あの書は燃えてしまったようだ。  確かに北郷との当初の約束ではもうここで自由の身にしてやってもよいのだろうが・・・」 「別にあなたはこの軍にいてもかまわないのよ?」 「え?いいのか?」 「太平要術の件がすんであなたを放り出すつもりならば凪達をあなたの下につけたりはしないわ。  それに天の遣いを擁する、という風評もまだまだ効果があるわ。」 「正直放り出されたらどうしようか、とか考えてたんだ。ほんとうに助かるよ。」 「でもね、一刀。今日のようなことを続けるようであれば、そのときは私の軍には要らないわ。  改善の余地なし、とみなした時にはすぐに放り出すから覚悟していなさい?」 「これは手厳しいな・・・でもそれもそうだよな。」 いかに盗賊どもを殲滅して回って社会的な地位を上げているといっても所詮はまだ地方の豪族である。 これからどんどん力をつけていきたいって時に足手まといの将なんて邪魔なだけだ。 一応巷でうわさの天の遣い、ということにはなっているが、それでも邪魔なものを下に置いておくほどの余裕はない。 「これでもあなたを買っているのよ一刀。今回は部下を率いた初陣なのだから多めに見てあげるわ。  私を失望させるようなことはないと信じているうちに、結果をだしなさい?」 「・・・あぁ、肝に銘じておく・・・」 よく考えてみれば、俺は華琳のおかげでいまこうして生きているわけで。 こちらの世界にきたばかりの、正直胡散臭い俺を保護してくれるような奇特な人間なんてほかにいるのか? それならば俺のしなければいけないことは自ずと見えてくる。 こちらで生きていけると思った。 この世界で生きると決めた。 元いた世界じゃうだつの上がらなかった俺がいまや一介の武将として扱われている。 俺を使ってくれる少女は俺に期待しているといった。 だったらその期待に答えなきゃいけない。 それが俺の覚悟だから。