華琳のところで世話になり始めてしばらくたった。 こちらの世界には徐々に馴れはじめてきてそれなりに働けるようにもなってきた。 そして現在盗賊退治に向かっているところ。 「はぁ・・・この馬って言う乗り物だけにはなかなか馴れないな〜・・・」 無茶を言っているのはわかっているんだけどね。走ってついていくわけにもいかないし。 もちろんこの時代に車や電車なんかあるわけでもない。 さらに言えば仕組みがわかっているからといって自転車や蒸気機関の乗り物なんて作れるわけもない。 よって必然的に移動は馬になるんだが・・・ 「しがみついてるだけでやっとだねぇ・・・本気で考えないと戦闘なんかできやしないよ・・・」 ましてや・・・ 「ちょっとあんた!いちいち愚痴愚痴と口に出して言うんじゃないわよ!耳が腐るわ!  こんなだらしない男、何で生かしておくのかしら・・・」 軍師ですら俺より立派に馬に乗ってるって言うのに・・・ こりゃ本格的に鍛えないとそのうち死ぬな。 「なんだって俺はこんなに嫌われてるんだ?」 「さぁな、それは私にもわからん。」 「考えるだけ無駄よ。あんた見たいな無能に私のことなんか理解できるもんですか!」 「あぁあぁそうだな・・・っと、おぉ?どうした春蘭、前線に動きでもあったか?」 出立前に一悶着あった結果今回軍師としてこの軍に加わった荀ケこと桂花と無駄口を叩いていると 夏侯惇こと春蘭がこちらにやってきた。 「うむ、前方になにやら大人数の集団がいるらしい。華琳様がお呼びだ。すぐに来い。」 「わかったわ!」 「うむ。」 「がんばってきてな〜」 「・・・役に立つとは思えんが、貴様も連れてこいとの仰せだ。来い。」 「・・・そう甘くはないか。了解。」 周りはどんどん進んでいってしまうが、如何せん俺は馬にちゃんと乗れない。 やっとの思いで前線で直接指揮を取っていた華琳に追いついた。 「華琳様、遅くなりました。」 「ちょうど偵察が帰ってきたところよ。報告してちょうだい。」 「はっ!行軍中の前方集団は数十人ほど。旗がないため所属は不明ですが服装から判断するにどこかの野盗か山賊かと思われます!」 「・・・様子を見るべきかしら?」 「もう一度偵察隊を出しましょう。夏侯惇、あとそこの朴念仁。あなたたちが指揮を取って。」 「おう!」 「へ〜い、いってきますよ、お嬢さん・・・」 そんなやり取りをしながら大事なことを思い出した。 こちらの世界に来た初日にあった女の子の一人がメガネをしていたので街で眼鏡屋を探して望遠鏡を作ったんだ。 折角の機会だし使ってみよう。 本隊から離れて少し行ったところで話にあった集団が見えてきた。 あ〜、ダメだこりゃ・・・倍率が微妙すぎてちゃんと確認できないぞ・・・ お、一応見えた、集団ってアレか?なんか飛んでるけどよく見えねぇ・・・ ・・・?あれ人じゃねぇか! 誰か戦闘してるってことか? クソ、もっとちゃんとしたもの作れば・・・ ・・・!!!見えた! 「おいおいおい・・・これちょっと急いだほうがよさそうだぞ。偵察部隊、速度を上げろ!」 「どうした北郷、そんな筒をのぞいてる思ったら急に慌てて・・・」 「先に行け春蘭!誰かが一人で戦ってる!俺に合わせて行ったんじゃ間に合わない!遅れていくから早く!」 「お、おう、わかった!」 まるっきり劣勢というわけではなさそうだったが楽観も出来そうもない感じだった まさかこんなに早く乗馬出来ないことを後悔する事になるとは・・・ 俺の出せる最大の速度で進んではいるものの、やっぱり春蘭たちと比べると二分の一くらいしか速度は出ない。 先見部隊に遅れること数刻・・・ 「はぁ、やっと、追い着いた・・・何人かは逃げてった連中尾行して。たぶん本拠地まで案内してくれるだろうから。」 「「「はっ!」」」 「なんとか間に合ったみたいだな春蘭。」 「あぁ、お前が言ってたのはこの子のことだったんだな・・・しかしよくあの位置から見えたな。」 「はっきり確認できたわけじゃないけどね。俺も少しは役に立ったってことでここは一つ。  君、怪我はなかったかい?」 「はいっ、ありがとうございました!」 「それは何よりだ。あとは撤退した連中についてった兵の報告を待つだけだな。」 「あぁ・・・しかし、なんか納得いかん。」 「人生なんてそんなもんだよ。っと、話してる間に本隊が来たぞ。」 途中に本隊に出した連絡隊の報告が行ったのだろう。 華琳たちは俺たちが本隊を離れる前よりいくらか速度を上げていた。 「一刀、前方にいた集団とやらはどうしたの?戦闘があったと聞いたのだけれど。」 「あぁ、春蘭とそこの子が追い払ってくれたんで、あとをつけさせといたよ。  曹操軍一行ごあんな〜い、ってね。」 「あら、なかなか気が利くのね。」 そんな話をしているときだった。 「お姉さんたち、国の軍隊なの?」 さっきまでの空気が急に張り詰める。 「あぁ、そうだが・・・っく!!」 鉄と鉄のぶつかり合う音ともに強い衝撃を感じる もちろん何が起こったかわからなかった。 女の子が持っていた鉄球を春蘭に向かって振り下ろした、と認識したのは一瞬遅れてのこと。 ・・・俺じゃなくてよかった。 ってか春蘭じゃなかったら死んでるだろこれ。 「ど、どうしたんだ突然!」 「国の軍隊なんか信用できるか!!てやあああああああああああっ!!!」 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ 事態が落ち着いたのはもうちょっとしてから。 事情を聞くにどうやらあの女の子、許緒の村を治める役人どもがまともな政治をしておらず 許緒の村は荒れ放題だったらしい。 そんなところへは盗賊どももやってくるしで、村で一番腕の立つ許緒がみなを守っていた。 盗賊から、そして、役人たちから。 しかし陳留が刺史の評判は届いているらしく、さらには華琳が頭を下げるという飛び道具まで出て この場は一件落着。 同時に盗賊どもをつけさせていた兵たちも拠点発見の報せとともに帰ってきて、許緒とともにいままでの意趣返し。 「こうして俺達の戦いの幕は切って落とされたのだ!」 「へへ、おじさん、面白いね!」 「ん、あぁ、許緒ちゃんか。流石に今日が初陣だからな。軽口でも叩いてないと落ち着かないんだ。」 華琳の軍に加わってから、馬にもまともに乗れない俺は戦場に出ても足手まとい。 だから今回のような作戦に参加するのは初めてのことだった。 「へぇ〜。たしかにおじさん、そんなに強くなさそうだもんね!」 「腕っ節に関して言えば許緒ちゃんの足元にも及ばないだろうね。  だからちょっと怖いってのもあるんだけど・・・ま、できることやってりゃ最後まで生きてられるでしょ?」 「やっぱりおじさん、面白いね!あと、許緒じゃなくて季衣でいいよ!春蘭さまも秋蘭さまも真名でいいっていってくれたし。」 「ん、いいのかい?それじゃ季衣とりあえずこの戦中はよろしく。」 「うん!よろしくね!おじさん!」 結果から言えば曹操軍の圧勝。 総大将の首という餌おびき寄せられた盗賊どもの横っ腹に春蘭、秋蘭の横撃がはいりそのまま戦線が瓦解。 指導者も指揮官もいない盗賊に出来ることといえばそのまま逃げ惑うだけであった。 鍛え上げられた兵と烏合の衆だとこれほどまでに違うものなのか。 それとも流石は曹操ということなのか。 そして、基本的に役立たずだった俺に出来ることといえば ただ必死に馬から落ちないようにすることと 戦場に居続ける。 ただ、それだけだった。 それでも・・・ 「はぁ・・・結局最後までなっさけないな〜、俺。」 「あら、私はあなたは気絶でもするかと思っていたわよ?」 ちくしょう、次はもうちょっと役に立ってやらないと面目が立たないじゃないか。 それにはまずは・・・乗馬だな・・・