第五話「再誕」 黄巾党退治に貢献した桃香たちは、一つの区画を任された。 そこは蜀と名乗り義勇軍はそのまま蜀の兵となった。 早急に街整備を初め、軍備増強に努める。 朱里と雛里の手腕はかつての外史同様、良き成果を見せた。 ――蜀、軍儀の間。 そこには主なメンバーが集められていた。 「性は趙、字は子龍、真名は星。よろしくお願いいたす」 公孫賛のところを離脱した星は、蜀に訪れていた。 面白い人物が収めている場所があると風の噂に聞き、訪れたと言っていた。 「星が加わったね」 隣に控えている愛紗と朱里に小声で話しかける。 「はい」 「頼もしい方が来てくださいました。これで安心材料が増えます」 嬉しそうに笑う二人。かつての仲間が揃っていくのは、やはり頼もしい。 「主殿。嬉しそうでござるな。うむ、懐かしい顔ぶれも居る」 「…は?」 「いやいや。私だけ仲間はずれ、というのも寂しいものです」 驚きに目を見開く。愛紗たちも同様だった。 「あれ? いや、え? そんなはずは…」 「不思議なこともありますなぁ。いや、まさかこんな怪現象が起こるとは」 「星も記憶が…」 予想もしなかった。だって星とは決定的な別れをしたわけではないから。 「何が条件なんでしょう? 余計に判らなくなりました」 「はい…。しかし、星に記憶が戻ったなら好都合です」 二人は一端、考えは保留することに決めたようだ。 「主殿との思い出も、たくさんありますなぁ」 「そうだね…」 様々な記憶が蘇ってくる。 頭の回転が速く、武に優れる彼女。 わざと反論する立場に回り、みんなの悪役を買ってくれたりもした。 助けられた事も多かった。 そして何よりも覚えている。彼女の温もりも、優しさも……。 「本当に、懐かしい。主殿に食われたメンマの痛み、まだ忘れておりませぬ」 「え…」 「いつか絶対に返してもらおうと思っておりました」 「ちょ、ちょっと待ってくれ、それは――」 「かつての蜀が戻り次第、いただきたいものですな」 しれ、っと星が答える。 その意味に含まれている言葉は多かった。 「あ、ああ!」 「これから楽しくなりそうですな。皆、またよろしく頼む」 嬉しそうに笑う彼女に、再び頼もしさを感じる一刀だった。 ◆ ――ほぼ同時刻、魏。 蜀と同じくこちらも軍備増強と都市整備に努めていた。 特に、都市整備に関しては徹底されていると言っても過言ではなく、その完成度も高い。 かつて一刀が消えた時に残していった都市整備案。 未完成の案ばかりではあったが、それは華琳の頭脳に入っている。 桂花や秋蘭の頭脳陣、凪・真桜・沙和といった現場の人間を集め実現可能か検討していた。 魏もまだ発展途上のため実現不可能なものも多かったが、出来る事もあった。 城の内部に警備隊の情報集約所を設け、そこで意見交換や情報を保管できるようにした。 これで過去の事件を閲覧出来るようになり、無法者の確保率が上がるようになったのだ。 「着々と整いつつあるわね」 玉座に座り、華琳は上機嫌に呟いた。 本当は一刀が居ればもっと早かったのだろうが、それは言っても仕方が無いことだ。 「はい。華琳様のおっしゃった通りに進んでおりますが…」 「何か問題が?」 「いえ。今までにない方法をいくつか採用しておりますので」 「それを実践せずして急に導入してるのが疑問なのね、秋蘭」 「はい」 華琳は面白いと言わんばかりに目を細める。実際面白かった。 意見交換は重要だ。そうして国は栄えていく。 誰も疑問を挟まない国は腐っていくだけなのだ。 「一刀が提案してものよ。すでに過去、実践されているわ」 「お言葉ですが華琳様。私は見たことがありません。聞いたこともありません」 反論したのは桂花。博識な彼女なら反論してもおかしくはない。 「まだ書物にも記されていないし、言葉の端に乗せられたことも無いわ」 「それは…。大丈夫なのでしょうか」 「問題ないわ。大規模な導入はうちが初めてになるだろうけどね」 話ながら春蘭に目を向ける。 真剣に討論してる場で、春蘭は一人ついていけず、真面目な顔をして何も考えていない。 いつも通りだった。 「このまま進めるわ。もうすぐ大きな大戦がある。各自、準備を怠らないように!」 「はっ」 一斉に部下たちが声を上げる。もちろん春蘭もだ。 「ふふふ。楽しくなりそうね」 華琳は一人笑うのだった。 ◆ ――同刻、孫策勢。 「策殿、各地の同胞たちに連絡は取れた。後は機を違えぬことが重要になるかの」 「ええ…そうね」 空に浮かぶいくつかの雲を眺めながら、雪蓮は呟く。 「楽しくなりそうだわ」 そして不意に。整った顔に笑みを浮かべる。挑戦的で、好戦的。 彼女の性格をよく現した笑顔だった。 「ご機嫌だな、雪蓮」 コツコツと靴を鳴らしながら、冥琳が歩み出てくる。 その顔には疲労が見て取れた。 「あら? 冥琳ってば、可愛い顔が台無しよ?」 「誰が無理をさせてるんだ?」 「少なくとも、私じゃないかなー」 どこ吹く風、と言わんばかりに流す雪蓮に、冥琳は思わずため息をつく。 「はぁ。まったくしょうがない。まぁいい手はずは整った。”彼”を取り返す」 「わぁお! 言い切ったわねぇ」 「当然だ。だがそれには完全な連携と、情報鮮度がものを言う。そこらは任せたぞ」 「だってさ、祭」 急に話を振られた祭は一度目を丸くする。しかしすぐに不敵な笑みに変えた。 「任せてもらおう。久々の大暴れとなれば、わしも嬉しいしの」 豪快に笑う祭につられて二人も笑い出す。 強敵を出し抜く算段が着々と作られていた。 過去を知るものの特権を用いて。 ◆ 「くんくんくんくん」 一人の少女が、風を受けていた。 澄んだ心地良い風の中で何かを探そうと匂いをかぐ。 二本の足でしっかりと大地を踏みしめつつも、それはどこか犬のようだ。 「懐かしい…匂い…。覚えてる…」 くんくん、と匂いをかぐ。 彼女はいつもこうやって彼を探し当てていた。 とても温かい人。一緒に居て楽しい人。ご飯をくれる人。優しい人。 彼女は彼がとても好きだった。 「うん…近い。近くまで来てる…もうすぐ…」 普段無表情な事が多いが、しかしこの時、確かにうっすらと笑った。 戦いの中、修羅と呼ばれることが多いが、それは乙女の笑みだった。 「恋、何をしている?」 「…別に」 「そうか。詠が呼んでいる、戻るぞ」 「…わかった」 ふらりと姿を消した彼女を探しに来たのだろう、同僚が呼びに来ていた。 名残惜しそうにその場を一度見つめてから身を翻す。 気にすることは無い。どうせもうすぐ会えるのだから。 彼女は城へ戻る道をゆっくりと歩き出す。普段より、少しだけ弾ませながら。 「まったく。すぐにどこかへ行く。探す方の身にもなってもらいたいものだな」 恋と呼ばれていた少女が見ていた方向を、同じく見つめる。 その瞳は複雑そうに揺れていた。 「もうすぐ、もうすぐだな! 楽しみだぞ一刀殿。大戦の後、また会える!」 直に訪れる大戦を想う。その先の結果はすでに判っていた。 必死に抗おうとする小さな女の子たちには悪いが、負けは確定しているのだ。 そして自分の境遇も判っている。 いずれ会う、一人の男のことも。 「うむ。この一本の槍、再び共に出来ること嬉しく思うぞ!」 先ほどの少女、恋と同じように彼女は空を見上げる。 様々なものを思い描きながら……。 第五話「再誕」完