第三話「奪還」 曹操軍は鍛え上げられた精兵の力と華琳の統率力、桂花の知略によって 黄巾党を徐々に追い詰めていった。 絶対数こそ黄巾党にはるかに劣るものの、その戦闘力は凄まじいものだった。 それに乗じて奮闘するのが劉備軍だ。 数は少なく兵の錬度も低いが、それを率いる将が凄まじい。 かつての記憶を取り戻し軍神の力を持つ関羽こと愛紗。そして愛紗に比肩する力を持つ燕人張飛こと鈴々。 二人の武人の前にはただの獣と化した黄巾党一味は紙くずも同然であり、さらにはそれを 鳳統と諸葛亮、二人の軍師が支えた。 曹操軍の的確な分析と戦力。それらが黄巾党の乱を収束へと導くのは、そう遠くない未来だった。 ◆ 「もうすぐ、この乱も終わるわね」 戦の後、一刀の寝床を訪れた華琳はそう言いながらため息をもらした。 「華琳…疲れてるのか?」 「疲れは無いわ」 そう言いきる華琳の表情に疲労は見られない。どうやら言葉は本当のようだ。 ただ彼女の顔には別の感情が浮かんでいる。それは例えるなら……焦燥感、だろうか。 「そう、疲れては……いないのよ」 少しだけ眉ねを寄せながら呟く。 一刀は思う。恐らく華琳にとって黄巾党の乱とは面倒ごとなのだろう。 華琳の性格から言って民を見捨てるという選択肢はない。覇王たる彼女が民を護るのは当然の義務。 しかし前に進みたい。過去の記憶を持つ彼女にとって、今一度同じ歴史を繰り返すのは苦痛に近いのだろう。 一刀は労わるように彼女の肩に手を優しく置くと、寝床の近くに置いていた酒瓶を取り出した。 「華琳、一杯どうだい?」 「あら…一刀が酒を勧めるなんて珍しいわね」 確かにそういう場面は無かったように思える。 いつもは酒の席に誘われる側で、自ら勧めることなど滅多になかった気がする。 杯を持ち、そこに酒を注ぐ。透明な液体はすぐに杯を満たし、その香りを漂わせた。 「良い匂いね」 「結構上等な酒なんだ。少ない金をせっせと貯めて買った奴だからね。華琳の口にあうといいけど…」 杯を手渡す。華琳は一度鼻を近づけその香りをかぐと、酒を半分ほど飲んだ。 口の中に一瞬留め、香りを今一度味わいながら、今度はそれを一息に飲み干し酒の感触を味わう。 華琳の口の中に美味い酒の味と香りが広がり、確かに上等の酒だ――と思わせた。 「美味しいわね」 「だろ?」 一刀は嬉しそうに笑う。 華琳は思う。これは本当に彼がせっせと金を貯めて買った酒なのだろう。 そしてそれは恐らく、彼自身が楽しむための酒ではない。 誰かを元気付けるため、もしくは祝いのため、そういうために用意したのだろう。 普段は鈍い男だが、本当に困っているときは判ってしまうのだ。そういう男だ、北郷一刀という人間は。 自分の焦れる心が伝わったのだろう。そしてそれを少しだけ解きほぐすために この酒をくれたのだ。 …まったく、甘い男。 それは素直な感想だが、決して悪い意味ではない。 むしろ感謝している。彼は間違いなく華琳の支えとなっている。 …だからこそ、手放しはしない。関羽、いくら貴方が狙おうとも……ね。 自信があった。 いくら関羽が記憶を取り戻し、軍神としての力を誇っていても、この曹孟徳の経験の前には勝てない。 覇王として生きた自分の全てが今、この内にある。 華琳の中に今まで焦れていたのとは違う、炎が燻ろうとしていた。 それは快楽。それは愉悦。 さぁ、挑んでくるがいいわ関羽! 私はそれを全身で受け止めましょう! 口元に笑みが浮かぶのを止められない。どうしても、止められない。それほどまでに楽しいのだ。 これこそが覇王たる自分の中にある本質。強者と戦う本能。 それを見た一刀は複雑な表情をしながらも何とか笑みを作った。 「うん…まぁ、元気出た…かな?」 「ええ。助かったわ一刀。もう少しで自身の焦燥感に焼かれるところだった。 …と言っても、今度は別の炎が燃え上がってしまったけれど」 好戦的な笑みを浮かべつつ、その瞳から知性は消えていない。 これこそが曹操、これこそが華琳。 少しだけ複雑な思いを抱えつつ、元気が出た彼女を見て安堵するのだった。 ◆ 「もうすぐ黄巾の乱が終わりますね、愛紗さん」 そう呟いたのは諸葛亮孔明こと朱里。 天才軍師と後に呼ばれる彼女は、考え込む仕草をしながら続ける。 「これが終われば、次の機会は反董卓連合の時となります。そしてその時は恐らく 呉の王、孫策さんが参戦するでしょう。彼女の記憶が戻っている以上確実です」 愛紗が頷く。 「そうなると、曹操さんを相手にしつつ孫策さんを相手にする事になります。さすがに それは厳しいでしょう。戦力的にも……不可能に近いです」 「ああ、わかってる」 若干の苛立ちを見せながら愛紗はまた頷く。判りきっていることだ。 「なら今の機会を逃す手はありません。だとするなら、恐らく機会は一度きり。 そしてそれは黄巾党の乱終幕の時でしょう」 「機は朱里に任せる。雛里は指揮を執ってくれ」 「わ……わかりました」 雛里は朱里の背中に隠れながら、コクリと頷く。 「しかし、早い段階で朱里と雛里が合流してくれて助かった。正直、私たちだけでは ご主人様を取り戻すのは少々辛かった」 「いいえ。私も早くご主人様に会いたかったですから。…残念ながらご主人様は いらっしゃりませんでしたけど」 「すまん、私が不甲斐なかったばかりに」 「い、いいんですよ!」 朱里は慌てて両手をぶんぶんと振る。皮肉を言ったつもりはなかったのだ。 「しかしまさか朱里まで記憶が目覚めているとは…」 「私も最初は驚きましたけど…。恐らく、記憶が目覚める条件はご主人様との別れだと思います。 だから私の記憶も蘇ったのではないかと」 「うむ……」 ――しかし、そう考えると、ご主人様はいったいいくつの世界を巡ったのだろう? 気になる。いったい、どれだけの世界を。いや取り繕うのはよそう。 いったいどれだけの女性と出会い、愛を育んだのだろう。 自身の胸が嫉妬で焦がれるのが判る。 その心中を察してか、朱里は愛紗の手を握る。 「…お気持ちは判ります。私だってご主人様は大好きですし、他の人と…なんて考えたくありません。 でも今するべきことはご主人様を奪還することです。そうですよね?」 「ああ」 朱里が握ってくれた手を強く、強く握り返す。 そうだ、今やるべきことをする。ご主人様だっていつもそうしていらっしゃったではないか。 「作戦を始めるぞ」 その言葉で、幕は開けた。 ◆ 「華琳、黄巾党決着の話だけど、やっぱり前回と同じようにするのか?」 「ええ」 曹操軍では、軍部主要陣を集め軍儀が執り行われいた。 主に桂花が作戦を立案し、それを秋蘭へ。秋蘭が春蘭へと話を通し、軍の前線指揮官として その作戦が実行可能かどうかを検討する。 華琳はあえてその場から一歩引き、一刀と話を進めていた。 「三姉妹を確保し、黄巾党の乱を収束させる。その後は前回通り、歌芸活動をしつつ 兵を集めと情報収集に努めてもらうつもりよ」 「わかった。じゃあ俺は…そうだな。凪、真桜、沙和の三人を連れて前線よりやや後方に展開。 前線部隊が衝突したのを確認してから敵本営に乗り込んで、三姉妹を確保。 こんな感じでいいかな?」 「問題ないわ」 華琳はあっさりと答える。だがその心中は淡白さとは正反対。 ――確実に成長している。私が見た、どの時よりも。 一刀は決して器用な人間ではない。努力と経験、そして意志力によって力をつけてきた人間だ。 そういう人間がいくつもの世界を巡り、努力と経験を積んだ。そしてその全てを継承している。 間違いなく化ける。これは華琳の確信だった。 「軍儀もまとまりつつあるわ。あなたは三人の部下にきっちりと説明をしていてちょうだい」 「わかった」 一刀はうなずくと、後方で控えていた三人の元へ歩き出す。 「さぁ…楽しくなってきたわ」 華琳の口元が楽しげにゆがむ。 ◆ 黄巾党、決戦。 曹操軍・劉備軍の共同軍の前に、黄巾党が展開する。 その数は共同軍を圧倒的に上回り、その錬度こそ低いものの数による威圧感を放っていた。 「所詮は言葉を解さん獣に過ぎないわ。話してもしょうがない、攻撃を開始するわよ」 華琳は自ら戦闘に立ち、戦術指揮を執る。 「春蘭は敵前線部隊と接触次第戦闘を始めなさい!秋蘭はその後方で援護!桂花は二人を補佐しなさい! 季衣は私の傍に!一刀は劉備軍が敵指揮官を攻撃し始めるのを確認しだい、三姉妹を確保! 戦闘用意!」 おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 精兵たちが声を張り上げる。それは大気を揺らし、大地を沈み込ませる。 戦闘が始まった。 「続け! 曹操が兵たちよ! 敵の全てを切り伏せるのだ!」 春蘭が兵たちの先頭に立ち自ら、単独で切り込みにかかる。 大剣がうなりを上げ、空気を裂きながら黄巾党の雑兵に襲い掛かる。 それは重い鉄の塊でありながら敵を切断する狂気。数人の兵たちの剣をいっぺんに砕き 返す刀でその身を切り裂く。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 「な、なんだあの化け物は!?」 腕が吹き飛ぶもの、胴が千切れ飛ぶもの、首を切断されるもの。 その全てに慈悲無く、春蘭の大剣は襲い掛かる。 「そらそらどうした! 最初の勢いはどうした!」 嬉々とした笑顔。純粋に戦闘を楽しむ心。敵を吹き飛ばす快感。 それは敵に、どのように映るか。 「ひぃぃぃぃっ! た、助けてくれぇぇぇぇぇぇっ!」 「逃げるな! 戦えー!」 「馬鹿言うな! あんな化け物相手にどうしろってんだ!」 「一斉に襲いかかればいいだろ! こっちは数で勝ってんだ! 負けるわけがねぇ!」 「そうだ、やっちまえ!」 一度はひるんだ黄巾たちだが、自分たちの優位を確認すると数をもって春蘭に襲い掛かる。 「馬鹿めが」 大剣を頭上で振り回し、そこに気を溜める。振り回される剣によって巻き起こされる風と共に力が 剣に纏う。 「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 振るわれた剣。それはただ"力"をもってして答えを出す。 数十人の人間がその圧倒的な破壊に巻き込まれ、宙へと舞い上がる。 その無防備になった姿を、秋蘭が見逃すはずもない。 「しっかり狙いをつけろよ!」 「応っ!!」 自分の部下たちに命じながら自身も弓を構える。 「一撃……必中……っ!!」 極限の集中。その中では雑音も、風景も、関係ない。 ただ標的を射るのみ。 「ってぇ!!」 一斉に放たれる弓矢。 それはほぼ全てが宙に浮く敵に刺さりその命を奪っていく。 曹操の部下の兵の錬度。それは一線を駕していた。 「大丈夫か? 姉者」 「あたりまえだ! 秋蘭、私は夏侯惇なんだぞ?」 「ふふふ。そうだな姉者」 夏侯姉妹。その前に、敵は在らず。 ◆ 「ほあー、すごいねぇ! 曹操さんたち!」 その姿を呆けて見ている桃香。大口を開けて見るその姿は、可愛くもあるが、情けなくもあった。 「桃香さま! 感心して見ている場合じゃありませんよ! これから私たちは指揮官を倒しにいくんですから!」 「あっ、そ、そうだったね!」 慌てて口の前を手で隠し、笑って繕う桃香。 その姿にため息をつきつつ、しかし愛紗の思考は鋭く、澄み切っていた。 「ではこれより、作戦を確認しますね」 前に出て張り切ってそう言うのは朱里。 「まず、指揮官のいる場所があの大岩の前。そこには多数の部下が展開しています。 まずそこに鈴々ちゃんが切り込み、敵をひきつけた上で、こちらに戻ってきてもらいます。 鈴々ちゃんは引き付け終えたら反転。敵陣を潜り抜けて一直線に敵本営に向かってもらいます。 愛紗さんは鈴々ちゃんが連れてきた部隊を撃破してください。 数自体は多くないので、ちょっと辛いかも知れませんが対処出来ると思います。 愛紗さんには雛里ちゃんが付き、私は桃香さまに付きます。ここまでで何か質問はありますか?」 「無いな」 「無いのだ!」 愛紗と鈴々、二人、揃って答える。 「では始めましょう」 ◆ 前線部隊と指揮官を攻撃する劉備軍。その二者が黄巾党と激突している。 それは後方に控えた一刀たちにも、ある種の迫力を伴って伝わってきた。 「おお〜。派手にやっとるなー。うちも暴れたいわー」 「駄目だ。今回は黄巾党の首謀者の確保にある。隊長がさっきおっしゃっていただろう」 「わかっとるがな〜」 真桜と凪の漫才を横目に見つつ、一刀の意識は遠くに向いていた。 ――愛紗は、大丈夫かな。怪我してないといいけど…。 愛紗の力なら大丈夫だと判っていても、どうしても心配になる。 「たいちょー、どうしたのー?」 「いや、何でもないよ。それより三人とも準備できた?」 三人、凪・真桜・沙和。力強く頷く。 「おし、じゃあ行くぞ!」 「応っ!」 一刀たちの部隊は一時後退。敵主力部隊を視認しつつ、こちらは見つからないように少数で移動。 大きく迂回しつつ、敵本営を目指す。 時より敵部隊に見つかったが、報告される前に撃破した。 凪たち三部下は、春蘭たちに比べればまだまだ技量不足だったが、そこは一刀の指揮で補った。 指揮能力はまだ二流の一刀だが、その二流がなかなか居ないのも実情。 一流と三流。そのどちらかに分かれてしまうのだ。 その点発展途上に居る一刀はなかなかの人材。しかし、たまに抜けてるところが露呈する。 「おわ、見つかった!」 「たいちょ〜。そこで叫んだらなお見つかるでぇー」 「覇っ!」 真桜が呆れた顔でツッコミを入れつつ、凪が気弾を放って敵を撃破する場面もあった。 「ははは、いやぁ、やっぱり戦場に出るとびっくりするなぁって」 「たいちょーしっかりしてもらわなくちゃ困るのー!」 「隊長は私がお守りするんだ…!」 「早くこの螺旋槍を突き入れたいなぁ〜」 まだまだ連携が足りてない部隊だった。 そんな漫才をやりつつも、一刀たちは無事、誰一人かける事無く本営にたどり着く。 三十名の部下に指示をだし、本営の周りに展開させる。 突入は三人の部下、続いて一刀。 「私は曹操軍が北郷の部下! 楽進! 張三姉妹! そこに居るのは判っている! 出てきてもらおうか!」 凪が声を張り上げると、髭を生やした男が「ひいぃぃぃぃぃぃっ!」と情けない声を出しながら 天幕から慌てて飛び出してくる。 「あっ、この中に三姉妹は居ますよ。じゃっ、俺はこれで」 「え? あ!」 自然な動作で中を指し、不自然な速さでその男は逃げていった。 「速っ!」 「あれはあれで、才能なのー」 三部下は三姉妹の確保のため天幕の中へと入っていく。 兵たちは本営の制圧するために活動を始めていた。 黄巾党の乱は収束へと向かっている。 「ふーっ……」 自然とため息が漏れた。 油断しては行けないと思いつつも、肩から力が抜けていく。 「もうすぐ……始まるんだ。戦争の時代が。俺はこれから華琳を支えていかなくちゃいけない。 こんなところで油断してちゃ、駄目だよな」 苦笑しながら天を見上げる。思えば遠くへ来たものだ……だ。 「そうなのだ! 油断してちゃ駄目なのだ!」 その時声が聞こえた。 ◆ 「何っ! 隊長がさらわれただと!? どういうことだ!」 「はっ、何やら小さい女の子が北郷隊長を担いで…」 「何だ、それは!」 凪が三姉妹を確保して出てくると、そこには一刀が居なかった。 慌てる兵士を一人掴まえて聞くと今の報告、というわけだ。 「くっ…まさか隊長がさらわれるなんて。黄巾の仕業か?」 「いえ、その、あれは、おそらく…」 「正体を知っているのか!?」 「多分…ですが。劉備軍の燕人・張飛かと……」 「なん、だと……!?」 燕人張飛。名前は聞いていた。そしてその実力も。 劉備を支える武人の一人。速さと豪腕を兼ね備えた優秀な武人と聞く。 「しかし何故だ! 劉備軍とは今共闘中のはずだ!」 「そ、それは私には…」 「くっ」 拳を握り締める。 ――迂闊だった、最後で油断した! しかしここで頭に血を上らせている時間は無い。 「真桜、沙和! 私は一足先に本陣へ戻る! 後は任せた!」 「おう、任せとき〜」 「たいちょーを、取り返すのー!」 その返事だけ聞くと、凪は走り出す。今までのどの自分よりも速く。 ◆ 「とーちゃーく、なのだ!」 「どわっ」 一刀を担ぎ上げて運んでいた鈴々は、急に止まると一刀をほっぽり出す。 「おいおい…無茶するよ…」 尻を打ち若干涙目になりつつ、辺りを見回す。 林の中に迷い無く突っ込んだ鈴々はそのまま走り続け、今では林の中心部付近に居るはずだ。 どうにか止めたかったが、何か喋ると舌を噛みそうだったので、仕方なく我慢した。 「鈴々、説明してくれ、ここはどこ――」 鈴々に説明を求め詰め寄ろうとしたところで、辺りの木々ががさがさと音を立てる。 「っ!」 とっさに構えるが、鈴々は笑って頭の後ろで腕を組んでいる。 鈴々の気配察知は動物のそれと同等か、上回る。彼女が余裕の態度を取っているということは、つまり――。 そこまで考えたところで、何かが一刀の胸に飛び込んでくる。 それは艶やかな黒髪。そしていつか感じた体温。あの時の香り。その鼓動。 「愛紗……」 「ご主人様、ご主人様! ようやく、ようやく……」 泣きじゃくる彼女。あの時と重なる。 しかし今感じる体温は確かに、ここにある。 「ようやく、この腕の中に掴みました、ご主人様!」 「あぁ、愛紗」 その身体を抱きしめる。武人と言われようと、華奢で今にも折れそうなその身体を。 「おかえりなさい、ご主人様」 「ただいま愛紗」 それ以上の言葉は今は必要なかった。 幼子のように泣きじゃくる愛紗を見て、複雑な想いをしつつ、しかし感慨深げに見ている人物が一人。 愛紗と同じく記憶を取り戻した朱里だった。 「奪還……完了、ですね」 自分も駆け出したくなる衝動を抑え、周りに指示をだす。 そう、今まさに私たちのご主人様は帰ってきたのだ。その実感を胸に仕舞いながら。 第三話「奪還」完