第三話「対立」 「北郷が一の家臣にして、ご主人様を守る青龍刀! 関雲長、推して参るっ!」 愛紗が青龍刀を構え殺気を迸らせる。 「いいでしょう。ならば私直々に相手してあげるわ。覇王となる者の、 曹孟徳の力、見せてあげる。」 華琳の威圧感が場を支配していく。 「まぁ良く判らないけど、一刀は私のモノ…いえ、呉のものよ。誰にも渡しはしない」 雪蓮の研ぎ澄まされた気配が立ち上る。 「参る!」 三人の声が一斉に発せられる。 瞬間、三人の姿がかき消える。高速で移動した三人は一斉に砂塵を立ち上らせ その砂煙に紛れながらも互いを認識し合い、凄まじい連撃を加えていく。 鉄と鉄がぶつかり合う音が幾多にも響き戦場の歌を奏でていく。 剣風によって晴らされた場には、三人が壮絶な戦いを繰り広げていた。 「くっ…何という力、何という威圧感……! これが曹孟徳、これが孫策!」 愛紗は的確に攻撃を防御しながらも、冷や汗を流していた。 強すぎる。 対峙する二人からはその言葉しか出てこない。 真の英傑の力。それは”今までの”愛紗は体験した事がなかった。 「だがしかし!」 今は違う。かつての記憶がある。 それを身体に同調させ、自らの力とする……! 恐らく、眼前の二人はすでにそれを直感、もしくは溢れる知能で達成しているのだろう。 その事実だけでもそら恐ろしさを感じる。 「しかし引く訳にはいかない。私にはそれだけの理由がある!」 青龍刀を回転させ、遠心力を乗せる。 「面白いわね関羽。私に挑むの?」 華琳が鎌を構え突進してくる。 それに絶妙の間合いを計り、一撃を―― 「決める!」 撃鉄。 凄まじい反動を愛紗は受ける。しかしその場に踏みとどまった。 「どうだ……!」 愛紗会心の一撃。 だが華琳は不敵な笑みを浮かべ、まったくの損害無く立っていた。 「良い一撃だったわ関羽。さすが未来の蜀の軍神。しかし…それでは私は倒せないわね」 「何だと?」 「次は私から行かせてもらうわ。受けられるかしら? この曹孟徳の一撃が」 華琳が鎌上に掲げ、一気に振り下ろそうとし――しかしそれは阻まれた。 「あら、私を忘れちゃ嫌よ? 寂しいじゃない」 「それは失礼。…前回は戦えなかった訳だし、ここで決着を着けるのも面白いわね」 「そうね…。血が、滾るわ」 壮絶な笑み。 殺意と闘志を混ぜ合わせた、まさしく鬼神とも言える者が浮かべる笑顔。 三人の戦闘は激化する。 数え切れないほどの打ち合いがなされ、戦場に立つ乙女たちは少しずつ その柔肌を血で濡らしていく。 ◆ 「すごいね……」 桃香が呟いた。 決して自分の入れない次元。改めて自分と共に居る愛紗という女の子に畏怖と尊敬を覚える。 「あんな戦い私じゃきっと出来ないなぁ」 胸に手を置き悲しげに眉を寄せる。 自分にもあんな力があったら。誰かを守れる力があったら。 でも自分には無い。それを手にする事も……きっと出来ないだろう。 それに何より、少しだけ悲しい事実が彼女の胸を占めていた。 北郷一刀。 彼の出現は少なからず、桃香に影響を及ぼしていた。 三人で大陸に平和をもたらそうと誓った。三人の意思は同じだった。 だが愛紗はまず彼、北郷一刀という人間を求めた。 ”ご主人様”――愛紗はそう言った。 どういう理由で彼をそう呼ぶのかは判らない。しかし、そう言うからには あの北郷一刀という男の子は愛紗にとって仕えるべき人間なのだろう。 では私は? その問が心から、頭から離れない。 そこでふと気がついた。彼が居ない。近くに居たはずの北郷一刀が居ない! 「あ、あれ?」 周りを見渡すと、彼を連れて行く二人の女の子が見えた。 「あぁー!!」 三人を指し思い切り叫ぶと今まで戦いを見るのに夢中になってた鈴々がようやく気付く。 「あ! あれ? お兄ちゃんがいないのだ!」 「もう! 鈴々ちゃん! しっかりして!」 「お姉ちゃんだって気がつかなかったのだー! 愛紗ー! 愛紗ー!」 渦中の愛紗に叫び伝える。 「何だ!? 今は…くっ、お前に構っている……暇は、無い!」 「愛紗! それどころじゃないのだー! お兄ちゃんが、お兄ちゃんがさらわれたのだー!」 「何っ!?」 鈴々の言葉に、対峙していた三人が一斉に周辺を確認する。 すると華琳の陣営に一刀を抱えて走る夏侯姉妹――春蘭と秋蘭が居た。 「華琳様! この男を確保すれば良かったのですね!?」 「ここは一端お引き下さい。これ以上は無用かと…」 「ふふふっ、良くやったわ二人とも」 華琳は愛紗と雪蓮、二人を一瞥すると口の端で笑い背を向け自分の陣営に戻る。 「曹操っ…! 「待ちなさいよっ!」 二人が華琳の後を追う。 しかし華琳が鎌を地面に振るい衝撃波を発生させ、二人の歩みを止める。 それに連携して秋蘭が矢を放ち、追撃する体勢が整う頃には、華琳はすでに辿り着いていた。 「また会いましょう、関羽。それに孫策。次は然る時、然る場所にて対決したいものだわ」 その言葉を残し、一刀を連れて部隊を引き上げる。 追おうにも秋蘭の部隊が矢を雨のごとく降らせ、近づくのも困難だった。 「せめて、こちらにも部隊が居れば、こちらにも……!」 矢を青龍刀で弾きながら、唇をかみ締め呟く。 そこには悲痛なまでの無念さが溢れていた。 そうして、華琳の部隊は去って行った。 一刀を連れて。 「くっ……うっ…」 涙が滲む。愛紗の視界を薄ぼんやりと、あやふやなものにしていく。 ようやく会えた。ようやく会えたのに。 またあの人は去ってしまった。 「うぅ、うっ……」 悔しい。とてつもなく悔しかった。かみ締めた唇から血が滴るほどに。 「愛紗ちゃん」 桃香が愛紗の肩に手を置く。 それでも、涙は止まらない。 「ご主人様……」 誰も居ない荒野に呟く。例え届かない言葉であったとしても。 あの人の心に響いてくれることを信じて。 「ご主人様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 愛紗の慟哭が、響く。 ◆ 第三話「対決」完