貴方が退屈を感じた時。 私は一つの物語の話をしよう。 それは異なる一つの物語。史実とは異なる物語。 あらゆる分岐から生まれ、枝分かれし、無数に紡がれて行く連鎖。 『外史』と呼ばれる物語。 その一つを、語ろうではないか。 ――――それが例え、いつかは消える運命にあろうとも。 ◆ 白銀に包まれる。 場を鮮烈な光が満たし、別れのときを告げる。 「行かないでっ!」 それは誰が発した言葉だったか。 「ずっと傍に居るって言ったじゃないですか!」 それは大切な人の言葉だったか。 「どうしても、逝くの?」 それは寂しがり屋の女の子だったか。 ともかく、どれも別れの言葉だったことは、覚えている。 悲しく、しかしどの時も誇りでいっぱいだった。 彼女たちと出会えた事。それは俺にとってまさしく幸運。 例え最後が決別だったとしても、一切の後悔はない。 ただ……少し――いや、とても――悲しく、寂しかった。 「もう一度……逢いたい、な」 もうすぐ訪れる虚無の空間を感じながら、ふとでた言葉。 それは紛れも無く本音。自身の中から出た真実だった。 「逢いたい…。逢いたい、逢いたい! もう一度、君たちと!」 君たちと戦乱の時を生きたい。 その身の全てを賭してくれた君のために。 最善を尽くした君のために。 誇り高く生きた君のため。 世界を愛するため。 愛する人と……いるために。 ふと、闇が訪れる。世界が終わるために……。 身体の感覚は全て消え去り、五感は消失した。 「終りか…」 そう呟けたのか、それとも自身の中に発したのか。それすらも、今となっては。 ヒトとしての限界。結局無力な自分に虚しさを感じながらも闇に身をゆだねる。 さようなら…。 その言葉さえ、意味を成すのかは判らないけれど。 …………………… ……………… ………… …… どれくらいの時が経っただろうか。 数万の時間が経ったような気がするし、ものの五分な気もする。 何はともあれ、瞼に光を感じて起きたことは……確かだ。 「眩しい…な」 光は徐々に満たされていき、暗闇しかなかった空間を満たしていく。 五感の感覚が復帰する頃には俺の目の前に一つの扉がある事に気がつく。 「何だ、これ?」 扉は金色のようにも見えるし、黒曜のようでもあり、桃色のような気もするし、赤くも見える。 まるで統一感の無い混沌。しかし調和しているように見える。 例えるなら…これは『可能性』だろうか。 俺が、歩む路の可能性。 「また、行けるのか? 俺は、また戻れるのか? 彼女たちのところに」 ”この扉をくぐりたまえ、少年。貴殿の可能性、それがこの場で試される” 俺の頭に直接届く声。その声は、女のようにも聞こえるし、男のようにも聞こえる。 ”しかし忘れるな、『外史』とは…儚いものであることを” 若い人間のようでもあり、しわがれた老人のようにも。 ”そして、いずれ……消える運命にある事を。それでも、貴殿は往くか?” 無邪気なようで、強かなようで。 ”今一度、戦乱の世に生きてみるか? 絢爛にして、凄惨。剛毅にして脆弱な、三国からなる世を!” 試す、いや試されるのか。判らないが、答えは一つだ。 「一つだけ、いいかい?」 ”聞こう” 「外史とは儚いかも知れない。けど、あの世界に生きる彼女たちほど、強い存在を俺は知らないよ」 ”……” 「もう一度往くよ、あの『外史』へ。そしてもう一度出遭うんだ」 ”ならばくぐるがよい” 俺はドアノブに手をかける。 だが、扉はぴくりとも動こうとはしない。押しても引いても何も起こらない。 ――俺には資格がないってことか!? 絶望しかける脳に、一つの可能性が思い浮かぶ。 そう、扉は……下へのスライド式だった。 「は…ははは。何だこれ。……まあいいや。今行くよ、みんな!」 意気揚々と扉をくぐる。 その瞬間。俺を…光が包んだ。 ◆ 「行ったな。やはり、彼はもう一度あの時代を歩む事に決めたようだ」 苦笑する。 北郷一刀…面白い人間だ。何度でも、何度でも外史を歩む男。 「また勝手をしてくれたな。消えた外史を再生させるとは、何を考えている?」 二人の同じ白い制服を着た青年が二人、何も無い白い部屋で向かい合っている。 五感も、時間の感覚すら無い完全なる無の部屋。”白い”とはあくまで認識だけの意味あいしかない。 「伏羲…。貴様の考えている事はなんだ? 外史を再生させ、北郷一刀を再び送り込んだ。 その先に何がある? 俺の邪魔をすることか。それとも世界の摂理から背くか?」 その言葉に伏羲と呼ばれる男が苦笑を返す。 「左慈。俺の目指すところは世界の破壊。そして世界の再生さ。彼にはその力がある。 まったくの無自覚だが、彼にはその資格があるのさ。邪魔をしているのはお前だ、左慈」 「何?」 「それに何より…。乙女たちが彼を求めてるんだ。なら、引き合わせてあげるのが粋だとは思わないか? おっと…お前にはそういうのは理解出来ないんだったっけ?」 あざ笑うような伏羲に態度に、左慈と呼ばれた青年は怒りに顔をゆがめる。 「貴様…。ふっ、まあいいだろう。今回は俺が介入してしまえばいい話だ。またかつてのように、 外史を破壊してしまえばいい!」 「させると思うか? 貂蝉にすら敗北し、一時的とは言え活動不可になったお前が?」 二人の間に緊張感が漂う。 超越者たる二人の闘気は凄まじく、何も無い虚無の空間すら帯電しそうな気配に満ちて行った。 「左慈、悪いがお前はここに拘束させてもらうぞ。どうせ時間の概念など関係ない。楽しもう」 そうして、二人は白い闇に溶けて行く。 これから先は、介入者も……そして超越者も関係ない。 ただ彼が再び彼女らに見えるため、ちょっとした手助けをしたにすぎない。 左慈をこの場に留めるのもちょっとした――そう、プレゼントのようなもの――ただそれだけだ。 そう、そして願わくば。 再生された外史が、新たな外史とならんことを。 そう、願わくば。 総てに決着を。 ――これが、最後だから。