今日は給料日の三日前。わたくしこと北郷一刀はこちらの世界に来て久しぶりの金欠に悩まされているのであった。 華琳の元で働き始めた当初は給金の割り振りの勝手がわからずもらってすぐには贅沢して月の終わりで金欠、ということはよくあった。 けどなれてくれば給料日前に飢えることもなくなってきたし、むしろお金は余るくらいだった。 部下も出来はじめておごることも多くなったがそれに比例して給料も、その、あがりましてね・・・? 自分のことにお金を使うこともないから無駄遣いするとしたら部下にご褒美上げるときくらいなもんですよ。 それがなぜ今日に限って飢えてるかというとね?そこには大して深くもない事情があるのである。 ざっと説明するならば月初めに春蘭と新作の焼き菓子を食べに行ったらそのことが季衣にばれてしまったので連れて行ったところどこでその話を聞いたのか流琉と秋蘭にもばれてしまって結局四人を連れてもう一度そこに食べにいくハメになった。 次にいつものように沙和に服をねだられてしょうがないから新しい服を作ったら思ったより高かった。 そのことが真桜にばれてしまったので真桜に球体式間接仕様のカラクリ夏侯惇将軍をおごらされた。 凪にも悪いので新しい洋服と髪飾りをプレゼントした。 役満姉妹にシュウマイをごちそう。 春蘭たちにお菓子をおごったことがついに華琳にばれて華琳にもお菓子をご馳走。 霞と飲みにいく。 部下と飲みに行く。 役満姉妹にシュウマイをご馳走。 役満姉妹にシュウマイをご馳走。 月の後半で役満シスターズの公演が立て込んだことが今月の敗因なのは確定的に明らかだ。 というわけでわたくしこと北郷一刀、ただいま金欠である。 救いは仕事中は賄いがちょっと出ることだ。 今日は非番だからこのまま極力動かないようにして明日の夜になれば何か食える。 それまでの辛抱だ、テコでも動かないぞ! 何か爆発音みたいなものが聞こえたけど俺はテコでも動かないぞ! 「おい、李典さんの工房が爆発したぞ!」 ・・・不吉な言葉が聞こえたけど俺は絶対にうごか・・・ 「隊長!隊長!ちょっと隊長ー!真桜ちゃんが大変なのー!急いで来てほしいのー!」 ・・・動かない・・・わけにはいかないよな〜・・・ こうして北郷一刀はまた流されるのであった。 『桜の香りは火薬の香り』 真桜の工房と俺の部屋はそこそこの距離がある。 それでいてなお爆発音が聞こえたので規模としては大きいだろうなとは予想していた。 だけどこれはあまりにも酷いだろう・・・ 工房の半分を占める窯が見事に吹き飛んでいる。 クレーターってこんな感じなんだろうなと感じるくらい地面は抉れておりおそらくカラクリ作りに必要なのであろう歯車や工具も散乱している。 さらにところどころ何かが燃えている。 爆発の衝撃で真桜は目を回しているらしいがたいした怪我がないということは不幸中の幸いである。 発見された当時は髪の毛はちょっと焦げてて服は千切れ飛んでてうわ言でカラクリの名前を叫んでいたそうだ。 燃え広がることはないだろうけど消火はしなければいけないということでまず鎮火し、そのあと真桜から事情を聞くこととなった。 若干ではあるが真桜の部屋にまで被害があったらしく、鎮火活動もそちらにまで及んだのだが・・・ 「・・・あれ?なぁ沙和、この燃えてんのって真桜の服じゃないか?」 「あれ〜ほんとだー。こっちは箪笥が燃えてるのー!」 「あちゃー・・・この様子だと真桜の服全滅じゃないか?」 「そうかもしれないのー・・・でも真桜ちゃん薄着だから大丈夫なきがしないでもないのー。」 「そりゃ確かにそうだけどさすがに何にもないのはきびしいだろうしな。目が覚めたら予備の服があるか聞いてみるか。」 「それがいいのー。あ、コラー!そこの玉無しども!口からクソ垂れてる暇があったらとっとと片付けて警邏に戻るのー!」 ずいぶんと派手にやったもんだ。実験はほどほどにしないと。 そのくらいの説教で終わらせるつもりだったんだ。 それがあんなことになるなんて・・・ 片づけが済んだあとは目を覚ました真桜から事情を聞いた。 目に見える傷はなくてもあとで気分が悪くなったりする可能性もあるということで真桜は休みということにして俺が付き添うことになった。 「・・・・・・・・・それでもうちぃーっと窯に火力がほしくてな?バンバン薪くべてたらドカーン!ちゅうわけや。」 「ちゅうわけや、じゃないだろうに。無茶すんなって。今回の規模だと人が死んでもおかしくなかったらしいぞ?」 「そないいうたかてうちが作っとったの隊長の武器やで?」 「え?そうなの?」 「もちろんやん!隊長がなんやカタナやったっけ?それ欲しい言うから窯改造して作ってやろ思ったのに…  隊長がそんなんやったら窯壊しぞんやん!」 「…その、なんだ、ごめん。」 「まぁええけど?どうせもうちょっと大規模でいじらんと無理やったし。ええ機会や。窯ごと作りかえるわ。」 「それは給料が入ったらやって欲しいけど…っとそうだ。真桜、お前いま服きてる?」 「なになに?隊長もしかしてうちの寝顔でも見てむらむらしたん?ええでぇいつでも相手するえで?」 「その申し出を受けるのも吝かではないけどその前にだな。さっきの爆発でお前の部屋のタンスまで吹き飛んでたんだ。  代えの服とかってあるのかなと思ってね」 「…?え?それなくなってたらあらへんよ?」 「えっ?マジで?」 「…?『マジ』ってなに?」 「あ、ごめん、それ本当か?」 「嘘ついてどないすんねん。服なん買ってる余裕あらへんよ。絡繰の部品とか結構高いんやで?」 「あ〜…ですよねー…だとするとどうするんだ?真桜の着る服ないよ?」 「まぁそのへんは誰かに借りればええんちゃう?どうせ後三日もすれば給料やし、隊長が服買ってくれるやろ?」 「おまえたちは俺のことを財布か何かと勘違いしてる!俺はお前らの小銭入れじゃないんだぞ!!」 「冗談!冗談やんか!そんな血の涙ながして抗議せんでもええのに…でもなぁ…絡繰も買い直さないかんし…」 「あ、安心してくれ。それはほとんど無事だったそうだ。」 「ほんま!それほんまなん!?」 「あぁ、俺と沙和でちゃんと確認したしな。夏侯惇将軍も無事だったそうだしそこら辺は心配要らないぞ。」 「良かったわぁ〜…あれだけが心配やってん…それなら服くらい買えるんちゃう?」 「そうだな。そうとなったら給料前借りすれば今日にも買えるし心配いらないか…」 「それは出来ないわよ?」 急に背後から声が聞こえる。 驚いて振り向くとそこには華琳が立っていた。 「え?できないってどういうこと?」 「当たり前じゃない。真桜は向こう三ヶ月は給料なしよ。あの一角の補修にどのくらいかかると思っているよ?」 「たしかにそれはそうなんだけどさ…う〜ん困ったなぁ…」 「真桜の技術力は買っているけれど、流石に今回のは規模が大きすぎるわ。だからあなたの給料を引かざるをえないのよ。」 「せやったら隊長の給料って前借りできひん?」 「ダメよ。」 「ですよねー。今できるなら今月はとっくにしてるしね。」 「そういえば隊長金欠で唸っとったもんな〜」 「笑い事じゃないし!ってかほんとに厳しいんだから!」 「ところで給料がないとどう困るというのよ?」 「真桜の着る服が無いんだ。さっきの爆発で箪笥ごと全部吹き飛んじゃったからな。」 「あら、そしたらだれかのを借りればいいじゃない?どうせ三日もすればお優しい隊長が買ってくれるのでしょう?」 「やっぱり俺が買うのか…」 心なしか華琳の目が怒っているように見えたが今回は無視した方が無難だろう。 そこで気がつく。 真桜が誰かの服を借りる? あの真桜が 我が国の武将の服を借りる…? 「…オーケイオーケイ、ちょっと待つんだ。」 小柄とはいえ真桜は決して華奢ではない。 相応の訓練を積んでいるし体は締まってはいる。 だかしかし! 決定的な問題がある。 「真桜、誰か貸てくれそうな人はいるのか?」 「凪なら貸してくれるんちゃう?ダメでも沙和がおるしどうにかなるやろ。」 そこまでは予想通りの反応だからそこまで気にならない。 では次の質問にはどう答えるのだろうか。 「で、じゃあその二人に服を借りたとして、その服着られるのか?」 「「あ」」 そう、他でもない真桜の服がなくなったのである。 そりゃ華琳を始め春蘭も秋蘭も抜群のプロポーションをしている。 霞だってそうだ。 しかしこと胸の大きさに関して言えば真桜相手では分が悪いだろう。 はっきりいってしまえば、おそらく魏の中で一番胸が大きいのは真桜ではなかろうかとさえ思う。 「さて、どうするんだ?」 「桂花のじゃだめかしら?あの子のは長めだし…」 「まて華琳、桂花の服真桜が気てみろ、パンツまるだしみたいな感じになるぞ。」 「ぐっ…それもそうね…。」 「まぁ俺としては一向に構わないけどな!」 「却下よ。では秋蘭のはどうかしら?」 「たしかにあれもワンピースだしな。あれだったら入るか?」 「いや〜無理やと思うで〜?あれ結構ぴっちりしとるやろ?」 真桜の自信満々な顔は可愛いと思う。 「チッ!なら春蘭の方ならどう?あの子最近太ったって・・・」 「華琳いま舌打ちした!?…秋蘭でダメなら春蘭も対して変わらんだろうなぁ…」 「せやなー、ほんまどないしよ?季衣の借りる?」 「下乳とか真桜思いきるな!よしぜひそれを借り「却下よ」ですよねー」 「霞のサラシならいいのではないかしら?」 「恥ずかしいやんあれ〜。ほぼハダカやで?」 「普段のとどうちがうんだ!?」 「全然ちゃうやん!あれは流石に恥ずかしいわ。堪忍してぇな。」 「では天和のはどう?あの子の胸は大したものだったは。」 「いやあれならきっと入るだろうけど3日のあいだ仕事できなくなるぞ?」 「え?それはなぜ?」 「あ〜大将知らんのか。あれ全部隊長の特注品やで?」 「一刀、それは本当なの?」 「ん?あぁ、そうだよ。なんかとにかく派手で可愛いのが欲しいっていうから元居た国の衣装を教えてあげたんだ。」 「あれメッチャ高いんやで?それこそウチの給料3ヶ月じゃ足らんくらいや。」 心なしか華琳の目が怖いけど無視しよう。 ここで困ってしまった。 本格的に真桜の着る服が無い…だと…? 「俺は裸でも構わないっちゃ構わないんだけど「ダメよ」ですよねー」 「華琳のじゃダメなのか?」 「皆までいわせるつもり?なら命の覚悟をすることね。」 「申し訳ありませんでした。」 「しかし本当に困ったわね。真桜には働いてもらわないと困るし。」 「ほかに真桜が着られそうな服かぁ…」 「困ったわねぇ…」 「せやなぁ〜そこそこ丈夫なやつやないとあかんし…あっ!」 真桜の頭にいいアイディアがティンとくるが聞こえた。 しかしそれは同時に不吉な予感にも感じたが時すでに遅し。 「なんや隊長、いいのがあるやん!」 ──────────────────────────────── 爆発から一日目 「隊長、納得いきません!」 昨日の後処理が遅くまでかかったもので寝過ごしてしまったのか?と思ったが、そんな時間でもない。 朝も早くから凪に叩き起される形になった。理由はわかっている。昨日の件の後処理だ。 「納得いかないって言ったってしょうがないだろ?本当にこれしか方法がなかったんだから。」 「ですがあまりにも…その…ズ、ズルイではないですか!」 あぁもうこの子ったら本当にかわいいなぁ。 凪がこんなこということはあまりないのでもう少し様子を見ていたいけどそれはそれで怒られそうなので理由を説明する。 「だって真桜は結局凪の服着られなかったんだろ?裸でもいるのも可哀相だしそうなったら俺の制服貸すしかないじゃないか。」 あの後春蘭、秋蘭、凪、沙和、桂花、流琉、季衣、風、稟と魏の国総出で真桜に服を持ってきたのだが結局真桜は着ることが出来なかった。 そして、真桜の提案した『隊長の服借りればええやん!』案を採用せざるをえず、今日の朝から真桜は俺の制服を着ているのである。 それに納得出来ない凪が朝一番で駆け込んできたのだ。 「そうでなくても真桜が自分で服を買えば良いのです!わざわざ隊長のお召し物を取り上げるなどあってはならない!」 「そう怒るなよ。どうせあと二日で給料日だ。そのくらいならべつに貸てやっても良いさ。」 なぎは なっとく できない ようだ 「ですがそれでは隊長はどうなさるんですか!着るものを真桜に貸てしまっては…」 「俺は上着着なければ良いだけだから問題ないよ。裸ってわけでもないんだし。」 「ですが…」 「いいから。今度凪にも貸してあげるから。」 「なっ…!そういうことを言っているのではありません!」 「えっ?違うのか?だってさっき真桜ばっかりズルイって…」 「あっ、あれは言葉のアヤです!わかりました、もう!早く仕事に参りましょう!」 「あぁはいはい、わかったわかった。じゃあ着替えるからでたでた」 「ちょっ…ちょっと!まだ話は」 ゴネる凪を追い出して着替えに取り掛かる。 しかしなんで急にあんなことを言い出したんだ? 確かに昨日の時点では納得はしていないまでもゴネるようなことはなかったはずだんだが… その理由は兵舎にいくとすぐに分かった。 「どや?ええやろ〜?隊長に貸てもろたんや!」 真桜が自慢しまくっていたのだった。 「も〜!真桜ちゃんばっかりズルイのー!沙和もそれ着てみたいの!」 「あ、ちょっとアカンて!ウチ下になにも着てへんねんで!?」 「そんなこと知らないの!沙和もそれ着たい…あ!隊長!真桜ちゃんばかり贔屓なのー!」 「お前もか!その制服そんな良いもんじゃないっていうのに。大体沙和の服真桜が着られれば大丈夫だっtグフゥ!!」 「たいちょ〜?なにかいったの〜?」 「な、なんでもないです…」 「隊長ってば女心が全然わかってないの…っていまはそんなこといってる場合じゃないの!  真桜ちゃんばっかりずーるーいーのー!」 要するに俺の制服を真桜だけが着るのが許せないってことらしい。 ほっといたら凪は仏頂面だし沙和はこの調子で仕事になんかならないだろう。 だが俺には給料がある!そのためにはまず沙和を黙らせて仕事をさせないといけない。 凪の機嫌もなおしてもらわないといけないしな! 仕事を優先するえらい北郷は早急にその作業に取り掛かろうとした。 しかし真桜の一言がそれを許さなかった。 「ほんまこれあったかいな、まるで隊長に抱かれてるみたいや。」 その後の展開は大方の予想通りである。 何かが切れる音が二つ響いたかと思うと凪と沙和は真桜に飛びかかっていった。 だがそうなることを事前に察知していた真桜はすでに兵舎を飛び出しており、そのまま三人で鬼ごっこが始まってしまった。 御存知の通り俺は相変わらずの腕っ節なためそれに加わることは出来ず、またお腹もすいているため無視を決め込むことにして 仕事を始めることにした。 結局三人が戻ってきたのは夕方過ぎてだった。 ──────────────────────────────── 爆発から二日目 真桜が天の服を着ているという噂は町中に広がっていた。 もちろん原因は昨日の領内かくれんぼのせいであり、ものすごい範囲で追いかけっこをしていたらしく洛陽の街全体にその噂は広がっているらしい。 そしてそれは城内でも同じことだった。 「本当にいつもの服を着ていないのだな。」 そう朝議の席で秋蘭にいわれて驚いた。 「あれ?てっきり知ってるものかと思ったけど。」 「話には聞いていたが実際に見るとまた違うものでな。脱いでいる姿も見たことはあるがほとんど閨でのことだ。  これはこれで良いものではあるが、やはりなにか足りない気はするな?」 「そうか?前の世界では授業中とかこんな感じだったけどな。制服って結構暑いんだぞ?」 「む?そうなのか?いつも着ているからてっきり涼しいものかと思っていたが…」 「いや、基本的にどんな季節でも着られるようにはなってるけど夏は暑くて冬は寒いんだ。」 「ほう…興味深い話だ…ではどうやって夏や冬を過ごしているのだ?」 「だから暑いときは脱いだり寒いときは中に何枚か来りコート…ってこっちだとなんだ?外套とかか?  そういうのきたりするんだ。ただ冬はそれで良いけど夏はやっぱり暑いよ。そういうときは着ないけどね。」 「なるほど。やはり興味深いな。では今度私も貸てもらうとしよう。」 「秋蘭、お前もか!」 「なに、魏の種馬ともあろうものが真桜ばかり贔屓というのもおかしいだろう?」 「べつに構わないっちゃ構わないけどさ…凪といい沙和といいなんでみんなあんなもの着たがるんだ?  ワンシーズン洗わないとか制服ではよくあることだぞ?」 「北郷はやはり女心というものがわからんのだな…まぁいいさ。興味本位だと思っていてくれ。」 言いたいことだけいって秋蘭はすぐにいってしまった。 だけど世の男性諸君はきっとわかってくれるだろうが、制服はそんなにいいものではない。 前述の通り夏は暑く冬は寒い。できれば脱いでしまいたいものであり、着たくないものの象徴である。 学園指定というこれは学生に施された枷のようなものであり、卒業とともに脱ぎ捨てる殻のようなものである。 それをあれだけ取り合うのは…あぁそうか、天の物って珍しいもんな。 珍しいものは触ってみたいという気持ちはとてもよくわかる。 好奇心を忘れたら大人だって誰かが言っていたような気がするけど…まぁ誰でもいいか。 要するにみんな子供だってことだな。 さて、朝議も無事に終わったことだし今日一日たえきれば念願のお給料だから気合入れて生き延びよう。 「とりあえず昼まで頑張るぞ!宿舎横の飯屋のおばちゃんが飯作ってくれるって言ってたしな。  では早速仕事にぃぅぼぁぁあ!」 突如腰が抜けるほどの衝撃を背後に受ける。 もちろんぎっくり腰などでは断じて無い。 「ほぉらやっぱりお兄ちゃんだったでしょ?だから言ったじゃん!」 状況はなんとなく理解できた。どうやら季衣が飛びついてきたようだ。 それはいつものことなのであえて取り上げることもないんだけど、その内容が気になる。 季衣が誰に喋りかけているのか気になって振り返るとこちらにパタパタと走りよる流琉が目に入った。 「コラ季衣!もし違う人だったらどうするのよ!」 やはり内容は服装の違いからくるものらしいけど… 「流琉、流石にそれはけっこうへこむよ…」 「え…?あっ!すみません!でも兄様の服装がいつものと違うものですから…」 「はぁ…秋蘭も言ってたけど制服来てないだけでそんなにちがうもんかな?」 「え〜と…なんというか…はい、正直別の人かと思いました…」 「へへ〜ん!ボクはすぐわかったもんね〜。」 「季衣は匂いでわかるっていってじゃない!」 「外見で判断じゃないのかよ!?」 「もちろん外見でもわかるけどさ?兄ちゃんってなんていうか暖かい匂いがするからすぐわかるんだよね。」 「そんなまさか。ただ汗臭いだけだって。いいからほれ、そろそろ離れてって。仕事にいけないよ。」 「え〜いいじゃん。ほら流琉もこっちに来てみなよー」 「わ、私はいいよ!ほら、兄様も迷惑してるでしょ!?離れなよ!」 「嫌だよーだ!最近兄ちゃん構ってくれないんだもん。」 「そうはいうけどこっちだって大変なんだぞ?季衣と一緒にいるとお腹すくし…季衣っていっつもなにか食べてるから…」 「だって流琉とか華琳様がいっぱい美味しいもの作ってくれるんだもん。残したら勿体無いしね。」 「せめてその優しさを俺に1割でも分けてくれたら俺はひもじい思いをしなくてすんだというのに…」 「ご、ごめんなさい…」 「なにも流琉が謝ることではないんだけどさ。今月のは完全に自分のせいだからな。」 「ですが、華琳様から兄様には御飯作ってはいけないっていわれてて…」 「いいよいいよ、華琳にはちゃんと気付かれないように仕返ししてるから。今回のはちょっとバレちゃったけどな!」 そうなのだ。 金欠になった原因でお気付きの方もおられるかも知れないが華琳に使う分のお金は基本的に少ない。 私こと北郷の意趣返しであることは明白である。 また、これは俺の名誉のためにいっておくけどちゃんと華琳にもプレゼントは買ってある。 ただ渡してない及び渡すタイミングがないだけなのだ。 「だから流琉は心配しなくても大丈夫さ。心配してくれてありがとうな。」 「とんでもないです!」 顔を真赤にして流琉は顔を背けた。華琳のとこの武将は比較的強気なのがおおいからこういう反応は珍しい。 「もぉー!兄ちゃん流琉ばっかりずるいー!」 「季衣はそろそろ兄様から離れなよ!」 「そんなこといって実は流琉がくっつきたいだけなんでしょ!?いやだよーだ!」 「コラ!季衣!」 「いいから喧嘩するのはやめなさいって。二人が喧嘩して俺が巻き込まれたら死んじゃうでしょ!俺が!」 その後俺に張り付いた季衣引き剥がすために流琉が超電磁ヨー…もとい伝磁葉々を取り出したあたりで命の危険を感じたので早急に逃げ出し事なきを得た。 季衣と流琉の喧嘩は俺には止められない。あれを止められるのは華琳くらいなもんだ。 あの二人の喧嘩は絶対殺し合いの域だと思うけど華琳いわく『じゃれ合ってるだけよ』らしい。 春蘭と秋蘭がケンカしたときなどはもっとひどいことになるからかわいいものだと。 ありえない。 すくなくとも一般人代表である俺から見たら両方共喧嘩の域を超えている。 そういえば武闘大会でみたけど霞あたりも怒ったら怖いのだろうか? 気まぐれなようでいて場の空気を見て発言している霞が烈火の如く怒っているのは見たことが… いや無いわけではないな… そう以前真桜と飛龍偃月刀の剣で喧嘩しているのを思い出しながら警邏に行くと、 「…………デジャビュ?」 真桜と霞がいい争いをしていた。 「あかん!あかんて!絶対にあかん!いくら姐さんの頼みでもいまは絶対にできひん言うとるやろ?」 「譲れんのはウチも同じやって!これじゃどうしようもないやんか…仕事にもならへん…」 「それはわかってんねんよ。ウチかてそんな中途半端な状態で渡すんはいやや。せやかて窯が潰れてんねんからしゃーないやろ!」 「ぐっ…せやかてこれじゃウチも得物なしだと気合はいらんし…」 「なんだ?どうしたんだ二人とも。」 「どうしたもこうしたもあらへんよ。真桜がウチの偃月刀直さんっていうんよ。」 「直さんなんて一っ言も言うてへんやろ!?直されへんっていうただけや!もうちょっと待ってぇな」 「いいから落ち着け二人とも。霞だってちょっと前の爆発をしらないわけじゃないだろ?あれで窯が潰れちゃったんだからしょうがないだろうに…」 「もっといったってぇな隊長。今日の姐さん聞く耳もたんねんよ。」 そういえば、と思う。 確かに霞は以前も武器に関しては妥協出来ないし思い入れがある分当たりも強くなることがあった。 だが今回の件は明らかに霞が無茶を言っている。現に真桜は修繕をやらないのではなく出来ないから待ってくれと言っているのだ。 にもかかわらず霞は直せと言っている。 おそらくそんな状況なんだろうと言うのは容易に想像できる。 だが、いや、だからこそわからない。なぜ霞が? 血気に逸ることは少ないイメージだったけど、その霞がなぜここまで怒っているのか? 「たしかにちょっと変だね。しかしなぁ…」 なんというか嫌な予感がする。 というか、嫌な予感しかしない。 大体昨日からいや、一昨日から何かしらに巻き込まれているがその中心にいたのは必ず君なんだよ、真桜くん。 理由が…うん、これもなんとなくわかるような気がするけど… そうだなぁ、絶対巻き込まれる流れだなこれ… 「あ、わかった、わかったで姐さん。いくら姐さんでも嫉妬はアカンでぇ?」 そうそう、こんな感じで真桜が調子に乗って霞を挑発して… 「まぁたしかに羨ましいのはわかるよ?でも姐さん、隊長がうちのこと大事にしてくれてんのは事実やし?  せやからそんなに怒らんと…な?」 「そこになおれ一刀おおおぉぉぉぉぉぉぉ!叩っ斬ってくれるわ!!!」 そうそう、霞が真桜に対してキレて… 「って俺かい!?なんだ!?今の流れで俺が斬られるのか!うわっ、あぶねぇ!かすったって今かすった!」 「残念ながら外してもうたなぁ一刀ぉ?次はよ〜狙うさかい、外さへんでぇ!!」 「だめだって!当たったら!死ぬ!うわっあぶね!  ってか真桜も見てないで助けろって!」 「いや〜隊長、そうなったらウチには止めることはできん、頑張って生きてな?」 「この薄情者おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 ──────────────────────────────── 念願の給料日 三日間というとみなさんはどのように感じるだろうか? 例えばテストまで後三日、だとするとその三日間はあっという間に過ぎる短い期間のように感じる。 だが逆に楽しみにしていたゲームが発売するまで後三日だったら、逆に永遠とも思えるような三日間をすごく事になるだろう。 今回の俺はまさに後者だ。 満足に飯も食えない上になぜだか死ぬような目にばかり会う。 っていうか二回くらい死に損なっている。描写はグロでdelされるから割愛だけどね。 一言でいうなら『ミンチよりひでぇ』状態だった。 だがしかしbut! そんな生活も今日までだ! 朝の会議でその月の給金が配られるのでそれで真桜の服を買って、久しぶりに屋台のラーメンでも食うか。 懐が重たいと気分は軽くなる、人生とは豊かだ! 昼飯は豪華に行きたいが我慢だ。なにせ真桜の給料がでないのだから。 簡単な話だ。想像力ってのは生きて行くのに一番重要なんだぜ? 真桜が金ない→「奢ってぇな隊長〜」「あ、沙和も一緒行くのー!ほら凪ちゃんも一緒に行こうよ〜」「わ、私までいいのですか!?」 大体こんな流れのはずだ。 だから慎ましやかに昼食をとって今後に備えることにしよう。 今月まで大盤振る舞いしてしまったらあとの二ヶ月は絶対にジリ貧だ。 多く考えたものが勝つって誰の言葉だったかな?と思いつつ、給金を受け取りにいった。 そしてその足で真桜の服を買いに行くつもりだったんだけど… あることに気が付く。 「あれ?サイズがわからんぞ?」 サイズがわからないんじゃ買いようがないじゃないか。 なら真桜を直接連れていこう。それならサイズはわかりやすいしな。 そうと決まれば善は急げだ。 給料を受け取ったその足でそのまま真桜の部屋へ… …なんということだ。 そうだ。そういえば忘れていたわけではなかったが、つい三日前に大きな爆発があったのだ。 爆心地は真桜の工房。つまり真桜の部屋にあたる。 窯を中心に洋服箪笥を吹き飛ばしかつその壁もろとも木っ端微塵に吹き飛ばす大爆発が起こったのだ。 なのに… 部屋ができている… 園丁無双の方々の力は確かに一度目の当たりにしたことはある。あの時はたしか庭の修繕だったはずだ。 それはそれはものすごい速度でなおしてみせたものだ。 けど限度ってモノがあるだろう。 建物の基礎はおろか一帯の地盤をえぐっているような、それこそ隕石が落ちましたって言われても納得してしまうような被害だぞ? それをたった三日で修繕が終わっているどころか真桜の工房の外面がちょっと豪華になってる。 これは中身も推して知るべしというものだ。 おそらくは華琳が力を入れて直させたのだろうけど… ここにこれだけ力を入れるなら真桜の服ぐらい買ってやりゃいいのに… なんとなくだけどそこに確かにある、真桜と俺の実力の差からくる待遇の違いを感じながら扉を叩く。 「おい、真桜いるかー?」 もちろん返事を待つ。理由は紳士だからさ! … ……あれ? 返事が無い。 「おーい!真桜いるかー!?」 もう一度ノックする。 いない? いや中からは音がする。 作業中なんだろうか? 「おーい!真桜ー!いないのか?」 勝手に入って着替え中っていう場面に出くわすことも悪くはないんだがここ3日間の風当たりのきつさを考えるとやめておいた方が身のためだろう。 いないんじゃしょうがない。 沙和あたりを捕まえて服のサイズをきけば…駄目だ…絶対沙和の分の服を買わされる… 「ほんとにいないのかー?…いないならしょうがないな。このまま街に…」 なんだかんだで仕事はある。隊長とは実はそこそこ責任のある立場なのだ。 もしかしたらもう先に出かけているかもしれないな、などと考えながら部屋の前を離れようとしたときに、急に扉は開かれた。 「ちょちょ!ちょっと待ってぇな隊長!諦めるのはやいて!」 「おう、なんだ真桜いたのか。」 「わざとらしすぎんで隊長…そんなことよりもうちーっと粘ってくれてもええんちゃうの?」 「だって粘ってて中に人がいなかったら俺バカみたいじゃん?だったらあとでもいいかなーって思ったわけさ。」 「思ったわけさ。じゃあらへんて!ほんま隊長はイケズやわ…」 「イケズってなんだよ。」 「それがもうあかんねんて隊長…昨日も一昨日もそうやったけど隊長は女心がわかっとらんな」 「やれやれみたいな顔してるけどその二つとも真桜のせいだったじゃないか。真桜が変なこと言うから俺が追いかけられたんだぞ?」 「えっ!隊長もしかしてそれ本気でいうてる?」 「えっ?」 「…はぁ…わかっとったけどこの人ほんま鈍感っちゅうかなんちゅうか…  そこまでとは考えとらんかってんけど…残念やなぁ…」 「なんでそこまでボロクソにいわれなきゃいけないんだよ」 「自分の胸に手ぇあててよう考えてみ!隊長がそんなやったらウチも張りあいないわ。」 「んなっ!だから何が悪いっていうんだよ!」 「そういうとこやっていうてるやろ!隊長のアホ!種馬!派遣社員!」 「あ!ちょっと!…あぁ…行っちゃったよ…ってか派遣社員は関係ないだろ派遣社員は…」 まったく、なんであんなに怒ってたんだ? 真桜は自分の胸に聞けと言っていたけど… 思い返してみる。 まず初日、真桜と凪と沙和の喧嘩。 なぜ喧嘩が起きたのか… それは真桜の一言だったけどなぜ真桜がそんなことをいったのか。 次に二日目。 季衣と流琉の喧嘩と、真桜と霞の喧嘩。 その時も喧嘩の原因があった。 そう、制服の取り合いである。 それはつまりそういうことなのか? ただ珍しいから着てみたいじゃなくて…? そして秋蘭の言葉を思い出す。 「なに、魏の種馬ともあろうものが真桜ばかり贔屓というのもおかしいだろう?」 「北郷はやはり女心というものがわからんのだな…まぁいいさ。興味本位だと思っていてくれ。」 はぁ…そりゃ真桜も怒るってもんだ… とりあえず追いかけないと… ──────────────────────────────── さんざんいろいろなところを探しまわった結果、真桜は街から少し離れた湖の畔にいた。 「こんなところにいたのか…ずいぶん探したぞ…」 「なんや、そんなに制服返して欲しいんか?」 真桜はまだ拗ねているようだった。 「そりゃまぁな?それが唯一俺の身元を証明するものだしな。」 「…!」 「それ以外に俺が天の国から来たってことを証明するものはないからね。  あと、あまりに情けないけどどうも制服着てないと俺って認識されないこともあってな…」 流琉や秋蘭の反応がいい例である。 街でも何回かおまえだれ?みたいな反応されたし、流石にあれは傷ついた… 「でもそんなことはどっちでもいいんだ。服なんかどうせそのうち着られなくなるからね。」 「いやでも、いま大切なもんやって…」 「返してくれるんなら返して欲しいけどさ。でも大切ではないなぁ。  少なくとも真桜が笑わなくなるんだったらいらないよ。気がついたやれなくてごめんな。」 「………はぁ…ほんまかなわんなぁ…」 「…ん?なにかいったか?」 「なんもいうてへんよ。ほんまはなぁ、隊長。」 「…どうしたんだ?」 「ええから最後まで聞き。ほんまはこの服、今日すぐ返すつもりやってん。」 「………。」 「隊長の武器作っとって窯爆発させてもうて、最初は半分ふざけてその服貸しぃいうたけどな、ほんまは冗談のつもりやってん。  けどな、隊長嫌な顔ひとつせんとかしてくれたやろ?それが妙に嬉しくってな。」 「…。」 「そいでな、うちもやっぱちょっと悪ノリしすぎたかと思うてな?  隊長に迷惑ばっかかけるのも悪いと思って凪にお金借りて服買って、すぐに返すつもりやったんや。」 「……そうだったのか?」 「せやで。でも隊長の声聞いてるうちになんや返したくなくなってきてなぁ。  これ返してしもたら、また普段どおりに戻るのかと思ったらなんかなぁ…」 「普段通り?」 「なんや隊長の服着てたらな、特別に扱ってもらえてるって思えてきてな…  普段は凪や沙和のこともあるから三人一緒にってことが多いやん?せやからうちだけ特別扱いされたいとも思わんかってんけどな?  でも今回のこれでなんや隊長の服来てるのうちだけやったし、隊長の女!っちゅう感じが強なってな?」 そうか、真桜それであんなこといったのか… (ほんまこれあったかいな、まるで隊長に抱かれてるみたいや。) (まぁたしかに羨ましいのはわかるよ?でも姐さん、隊長がうちのこと大事にしてくれてんのは事実やし?) というかここまでいわれてて気がつかないんじゃそりゃ真桜も怒るってもんだよな… そうして、二回目になる謝罪を口にして真桜を抱きしめた。 「ゴメンな真桜。そんなふうに思ってくれてるのに気が付かなくて、本当にごめん。」 「あ!っちょ、やめぇ!やめぇって!」 最初は抵抗したものの次第に真桜もおとなしくなる。 「ほんま隊長はアホやな…そんなんやから種馬っていわれんねんで?」 「でも今だけは真桜の特別でいたいかなって思ったんだ。だめかな?」 「…はぁ…隊長ほんま女泣かせやで…」 ──────────────────────────────── その後、結局することをしてから街に戻り、凪達にはたっぷりと怒られた。 しかし真桜はというと上機嫌で街に戻り、凪の説教を華麗に聞き流したかと思うと俺を連れて服を買いに出掛けるのであった。 今回の話の火種となった俺の制服はというと… 「洗ってかえすて!隊長はあれか?乙女に恥じかかすつもりか?」 「いや、それをいうなら俺が洗わないで貸した時点でどっこいどっこいだって。」 「乙女と男のを一緒にしたらアカンて!」 「え〜いいじゃないかよ。さんざん俺の匂いがどうとかいってくれちゃったらしいじゃないか。だからいいのだ!」 「あー!ちょっとまって隊長…あぁぁぁぁ………」 「はー、久しぶりに袖を通す制服というのもなんというか乙ですな!」 「あか〜ん、アカンて隊長…」 「大丈夫だって真桜、木とか鉄とかに混じって、真桜のいい匂いがするよ。」