呉ちんこさん(5歳)外伝 南好日和その3 ・ゴイスーな危機と桃色の口付け 「一刀くーん。起きて下さい一刀くーん」 「ふえ…?」 一刀は知らない誰かの声に呼ばれて目を覚ます。 穏やかな光がまぶたの裏に差し込んできた。 一刀は目を擦り、あくびを一つして周囲を見回した。 ───そこはどこかで見た一面の桃色。 「…ここ、どこ?」 「あ。目が醒めましたか?」 首を傾げる一刀の目の前に、黒髪の女性が笑顔でこちらを見ていた。 すっきりとした顔立ちに勝気そうな目。そして腰まである黒髪が桃色の光を反射し、 キラキラと綺麗に輝いている。 「おねーさん、だぁれ?」 「私はですねー…南海覇王の精、その名もナンちゃんです!」 「な、なん…?」 「気軽にナンちゃんと呼んで下さいね♪」 そう言うと、自称ナンちゃんはにっこりと微笑んだ。 「あ…ほんごうかずとです」 「はい、知ってます。良い子良い子、ちゃんとご挨拶出来るんですねー♪」 なでなでと。ナンは一刀の頭を撫でる。 一刀はしばらく擽ったそうに撫でられていたが、 「あ、あの…それで、僕なんでここにいるの?」 ずっと頭の中に浮かんでいた疑問を口にする。 一刀の記憶では、昨晩は雪蓮と───そして閨に来ていた冥琳と一緒に寝ていたはずだ。 久しぶりに大好きな母たちとゆっくりと寝られる一日だったので、一刀としては とても嬉しかったのを覚えている。 それが何故ここにいるのか……。 「おー!そういえばそうでした!」 ナンはポンっと手を叩くと、急に真面目な顔して声のトーンを落とした。 「私が今回、あなたを呼んだのは他でもないのです…今、あなたの身にゴイスーな危機が迫っています!」 「ご、ゴイスー…?」 「ゴイスーです。もうかなりゴイスーな危機です!」 大事なので二回言いました!と、ナンちゃんは念を押す。 「えと…良く分かりません…」 「うーん…そうですねぇ。例えば死ぬような目と言えば、分かりますかね?」 「ふ、ふえ!?僕、死んじゃうの!?」 「まだ死んでませんよー?でも死ぬような目にあうのは確実ですねー」 「そ、そんなぁ…そ、それって何とか出来ないのー!?」 うんうんと頷くナンちゃんに、一刀は慌てながら問い詰める。 ついこの前、矢傷で死にかけたところなのだ。またあんな目に逢うのは御免だったし、 何より自分の周りの人たちに心配を掛けるのも嫌だった。 「…なんとか出来ない事もないんですけどぉ♪」 「ほ、ほんと!?」 「はいー♪でも…それにはあなたの協力が必要でして」 そう言うと、ナンは服をするすると脱ぎだし、妖しく笑う。 「あ、あの…おねーさん?」 「大丈夫ですよー?これはちょっとしたけ・い・や・くですからー♪」 「ふえ?え?へ!?」 「うふふふ…大丈夫大丈夫…痛くないですし、むしろ気持ち良いんですからぁ」 突然の展開に、一刀の思考は追いつかない。 されるがままにいつの間にか服も脱がされて行く。 「は、はわ・・・」 「さあさあ、目くるめく桃色の世界へ!BGMもエッチモードにスイッチおーn」 「ちぇすとぉぉぉぉ!!」 「きゅう…」 「ふ、ふえ…?」 不意に一刀に圧し掛かっていた力が抜ける。 見ると、ナンは目を回しながら大きなたんこぶを作って気絶していた。 「ふん。黙ってみていれば・・・。たかだか剣のクセに調子に乗るでないわ」 そして、その後ろから薄桃色の髪を靡かせて姿を現したのは─── 「堅おねーさま?」 「おう。久しいな、我が孫よ」 堅は肩に鞘に包まれた剣を担ぎながら、にっこりと笑う。 「危ないところだったな。幾ら夢の中とはいえ、見ず知らずの女に貞操を奪われては寝覚めも悪かろう?」 「これって、夢…なの?」 「当たり前だ。でなければ死人がこうして出てこれる訳があるまい」 いつかの様に堅は一刀を抱き上げる。 密着した時にやはり母と似た香りがして───安心して一刀は堅に身を任せた。 「ふふっ…坊主、少し重くなったか?」 「みゅう…そうかなぁ」 「成長してる、という事さ。くくっ…この分では本当に閨を経験するのもそう遠くなかろうな」 「ねや?僕、いつも母様たちと一緒に寝てるよ?」 「あっはっはっは!そういう意味ではない」 堅は豪快に笑いながら、一刀の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。 「だがまあ、その方がお前らしいのかもしれん。…さて、名残は惜しいがもう時間だ」 そう言うと、堅は一刀を降ろし─── 「願わくば……あいつらより先にお前がここに来る事がないように」 「…っふぁ」 その唇を奪った。 翌日───。 「〜〜〜〜♪」 「あら一刀。今日はご機嫌ね?」 「うん!えへへ…堅おねーさまにチューしてもらったんだ」 「堅…ってまさか?いや、でもそんなはずは…?」 と、不思議そうに頭を捻る雪蓮と、終始ご機嫌な一刀が居たという。 ・姫と王子のお勉強 王たるものの義務、というものがこの世の中には少なからず存在する。 それは公正な政治を行う事や、軍事的な才能、その他他国から下に見られない程度の 厳正な態度等々……その例を上げれば限がない。 しかし、それを行うために必要なものは少ない。 すなわち、才能と教養。 この二つが土台としてしっかりと存在していればどんな事例にも対応出来る。 それは当代の呉王───孫策こと雪蓮を見ていればおのずと誰もが理解出来る事だろう。 もちろんそれはしっかりと次代にも伝えていかなければならない。 故に、教育というものはとても重要な国事である、と言えるのだが─── 「お腹すいたー!ラーメン食べたいー!」 小さな勉強部屋に小蓮の叫びが木霊する。 麗らかな午後……柔らかな日差しの差し込むこの部屋で、小蓮と一刀は机を囲んでいた。 その横には教育係を任された蓮華と穏が座っている。 「慎みがないぞ、小蓮。昼食は済ませたばかりだろう」 「さっきのじゃ全然足りなかったんだもん」 蓮華が呆れた様に言うが小蓮は唇を尖らせてぷーっと頬を膨らませた。 「シャオは育ち盛りなの!だからえいようがひつようなの!」 「…お前は孫呉の姫だろう?いつまでも子どものままでは困る」 「ぶー!そうやってすぐ子ども扱いするー!」 「まったく…少しは一刀を見習ったらどうだ?」 溜息を吐きながら、蓮華は傍らに座る一刀を見る。 そこには穏が作った指南書と書簡を見比べながらうんうんと唸る一刀がいた。 どうやら苦手な算術の練習をしているらしい。 「んと…八×五は…」 「はいはーい♪そういう時はですね?丸印をならべて考えちゃいましょう〜」 「まる?」 「そうですよぉ。乗算というのは結局のところ加算の積み重ねでしかありませんから。 だから分からない時は数字を一つずつ足していけば良いんです」 「ふむふむ…」 一刀は手元の書簡に丸印を八つずつ並べて書いていく。 その列が五つ───つまり、四十個分書いたところで一刀は漸く気付いた。 「あ…そっか。この縦の列と横の列が…」 「はい。それが乗算の答えになるんですよぉ。うんうん、良く出来ましたー♪」 「えへへ・・・」 穏に頭を撫でられて、一刀は嬉しそうに笑う。 「ぷー…」 小蓮はそれを面白くなさそうに見ると、机に突っ伏して唸った。 「お姉ちゃんはすぐガミガミするー」 「姉様や冥琳たちが国政に忙しい今、一刀とお前の教育は私に任されているからな」 「ぷぅ…威張っちゃって」 そう言うと小蓮は席を立ち、また問題を見ながら唸っている一刀の隣まで歩いていく。 「ねぇ一刀、それって楽しい?」 「ふえ?えと…うーんと…」 「悩むって事はそんなに楽しくないって事だよねー♪そ・れ・じゃ・あ…」 小蓮は、むふふ…という擬音が聞こえてきそうな顔を浮かべ、 「シャオお姉ちゃんと…良いことしましょうか?」 一刀の耳たぶを、甘く噛んだ。 「ふ、ふえ!?」 「あらら、一刀ってば照れちゃって♪可愛いんだから、もう♪」 小蓮は一刀を後ろから抱きすくめ、今度はその首筋に舌を這わせる。 「ふぁ・・・!?シャ、シャオおねえちゃん!?」 「んっ…一刀のここ、すごくおいしい…ねえ、ここもきっと…」 「や め ん か !!!」 小蓮の手が一刀の…なところに伸びたところで、額に青筋を浮かべた蓮華が割って入る。 「ふえぇぇぇ…。れ、蓮華おねーさまぁ…」 「かかかかか、一刀!?大丈夫よ!私が守ってあげるから!こら小蓮!」 「ぶー…シャオと一刀のあまーーい恋人同士のひと時を邪魔しないでよー!」 「何が甘いひと時だ!それに!か、一刀に恋人など…そ、そのまだ早いというか…」 「姉様ったら、おっくれてるぅ♪今の時代はね、恋人は早い者勝ちの時代なんだよ?」 「なーーーーーーーー!?」 再びぎゃいぎゃいと始める蓮華と小蓮。 一刀はその間でおろおろと泣きそうな顔で二人の間を右往左往している。 「いつお勉強が再開されるんでしょうかねぇ」 その横で、教師役の穏がお茶を啜りながら溜息を吐いた。 こうして、いつもと同じように日が暮れるのでした。 どっとはらい。 ・一刀流めいどきっさ 雪蓮編 「おかえりなさいませおじょうさまー!」 ヒラヒラのメイド服をたなびかせ、一刀がぺこりとお辞儀をする。 「あらあら、可愛い給仕さんね。それじゃ、お茶を一つお願いしようかしら?」 「はーい♪」 「もちろん一刀の分もちゃんと貰ってくるのよ?」 「うん!」 普通の親子の団欒になりました。 ・一刀流めいどきっさ 冥琳編 「おかえりなさいませおじょうさまー!」 ヒラヒラのメイド服をたなびかせ、一刀がぺこりとお辞儀をする。 「ふむ…。それではお茶を一杯と…そうだな、あとは」 「ふえ?」 「経済についての講義を受けてもらおうか」 「にゃ、にゃー!?」 普通のお勉強会になりました。 ・一刀流めいどきっさ 蓮華編 「おかえりなさいませおじょうさ…にゃー!?」 ヒラヒラのメイド服をたなびかせ、一刀がぺこりとお辞儀をすると、 「ハァ…ハァ…か、一刀!一刀がそんな格好で私を誘うからいけないのよ!?」 「いーーーやーーー!」 「イタダキマーーース♪」 普通の…ふ、普通? ・一刀流めいどきっさ ??編 「おかえりなさいませおじょうさまー!」 ヒラヒラのメイド服をたなびかせ、一刀がぺこりとお辞儀をする。 「…今下界ではそのような服が流行ってるのか、我が孫よ?」 「ふえ?」 「いや…いい。それでは茶ではなく酒を持ってきてくれるか?」 「はーい♪」 普通に登場しすぎ? ・最後はやっぱり母様と 「お勉強も良いけど、やっぱり子どもはお外で遊ばなくちゃね♪」 「あ!また釣れたー!」 「へぇ。中々やるじゃない?」 「えへへ…」 晴れた日に川原で釣りをする雪蓮と一刀。 それは戦乱の合間の───ほんのささやかな休息…。 「次は皆でこれたらいいのにねー?」 「そうね…。いつか、皆でまた来ましょうか」 夕暮れに並んで歩く母子の手は、しっかりと握られていた。