呉ちんこさん外史 南好日和その2 ・酒と女と人生とかその他もろもろ 「〜〜〜♪」 一刀は鼻歌を歌いながら廊下を歩く。 今日はよく晴れた洗濯日和───なので、城の侍女達のお手伝いだ。 洗濯したばかりの服を抱えて、今は干す場所に向かうところだった。 「バッカもん!」 「ひゃあ!?」 と、廊下の奥から突然怒声が響く。 「な、なんだろ…」 籠を抱えたまま、一刀は恐る恐る角から顔を覗かせる。 そこには─── 「まったく、この石頭め!何度言えば分かるのだ!」 「は、はぁ…。申し訳ありません」 世にも珍しい、祭に怒られる冥琳の姿があった。 「良いか、周公謹。人生の伴侶は酒と戦ぞ?それを忘れて知や理屈のみを優先させる輩に誰が付いて行くものか!」 「はぁ…そ、それは分かっておりますが」 「ならばつべこべ言うでない!儂に酒を飲まさんか!」 「し、しかし祭殿…」 困ったように冥琳が言葉を濁す。 どうやら相当絞られているらしい。 (あれ?でも…何かへん?) 祭の言い分に違和感を感じる。 (あ。もしかして祭おねーさま───) 一刀が今までの経験から状況の予測立てた時、 「ん?そこにいるのは…坊か?」 「ふえ!?」 「おお、坊!ちょうど良いところに来た!この頭でっかちに、お主も何とか言ってやれ!」 角に立っている一刀を祭が見つけ、腕を引っ張って目の前につれてきた。 「さあ、坊!行け!」 「…えーっと」 一刀は困ったように頬を掻く。 ───やっぱり、祭おねーさま酔ってる…。 案の定、祭からはプンプンと酒の匂いがしてくる。 「一刀…。良いところに来てくれた」 「あの冥琳おねーさま…やっぱり?」 一刀の問いに冥琳は無言で頷いた。 ……お前の予想してる通りだ。 冥琳の顔は如実にそう語っていた。 「んもー祭おねーさま、また勝手にお酒飲んじゃったんでしょー?」 「ち、違う!それは違うぞ坊よ!」 「ふえ?」 「良いか?簡単に状況を説明するとだな…」 「儂が酒を飲んでいた」 「うん」 「公謹に見つかった」 「……う、うん」 「叱られた」 「ダメじゃん!」 「…どう考えても祭おねーさまが悪いと思うよ?」 一刀は呆れながら祭の顔を見上げた。 その横では、冥琳が額を押さえながらため息を吐いている。 どうやら、今の言葉がこの状況の全てを的確に表現しているらしい。 「何じゃ!酒の一つや二つ!ケチケチするでないわ!」 祭が駄々をこねるように言った。 ───確かに、と。一刀も不思議に思う。 祭が仕事中に酒を飲むのは……まあいけない事ではあるが、良くあることだ。 それだけで、冥琳がこんなに怒るとは思えない。 つまり、他にも理由があるのではないか? 一刀はそう思って冥琳を見ると、その意志が伝わったのか、冥琳はにんまりと笑った。 「そうですね。祭殿はまだ肝心な事を話されておりません」 「ぎくぎく」 その冥琳の言葉に、祭が露骨に反応を返す。 どうやら図星だったらしい。 「ねえ祭おねーさま?ちゃんと話してくれないと…僕わかんないよ?」 「いや、しかし…坊〜」 「もしかしたら祭おねーさまの味方を出来るかもしれないし…。ね?」 「むう…仕方あるまい…。実はな?」 「うんうん」 「あの酒はな…」 「帝への献上品だったのだ!」 「…えーっと」 帝───つまり漢王朝の皇帝への献上品。 五歳の一刀にもその重要性は分かる。というか、かなり大事だった。 「どうじゃ!」 「どうじゃ!って言われても…」 ちらりと冥琳の方に目を向けてみると、困り果てた顔でうんうんと頷いていた。 ───どうやら、全て本当の事らしい。 「…ごめんなさい、しよっ?」 「うぅ〜…どいつもこいつも、寄ってたかった儂を悪者にしようとしよる!良いか!酒と人生というものはなぁ!」 その後───冥琳と一刀は延々と祭の酒と人生講座に付き合わされたのであった。 「それに!儂は半分しか飲んでおらんぞ!」 「…ほえ?じゃあ後の半分は…?」 その頃、庭の木の上では。 「んー♪このお酒ほんっと美味しいわねー♪冥琳ったら、こんなにおいしいお酒を隠してるなんて人が悪いわぁ〜♪」 また一人、酔っ払いが生まれていた。 ・思春が一刀に甘い訳 「あら?」 お昼の休憩の時間。蓮華はいつも茶を飲んでいる東屋に先客がいることに気付く。 「蓮華様…ですか」 「んにゅ…zzz…」 そこに居たのは、一刀と思春だ。 その傍らには訓練用の剣が置いてある。どうやら、先ほどまで剣の鍛錬をしていたらしい。 「どうやら昼飯を食べたら眠くなってしまった様でして」 そう言いながら、思春は膝の上で寝ている一刀の髪を撫でる。 「…無防備な顔をして。少しは警戒するという事を知らないのか?」 そう言う思春の顔は優しい。 蓮華はそんな思春を見て、少し微笑む。 「……何と言うか、意外ね」 「は…?」 「思春ってば、最初は一刀の事近づかせもしなかったのに」 「…そ、それは…」 思春は困った顔で言いよどんだ。 一刀が初めて思春と会った頃───こうして膝枕をさせるどころか、近づかせもしなかった。 それは蓮華という主を守るため…天の御遣いなどという怪しいものから守るためには当然の処置と言えたが─── 「ま、まだその時はこいつの事を良く分かっていなかったというか…その、何と言うか…」 「ふふっ。まあ良いわ。でも…いつの間にそんなに仲良くなったの?」 蓮華が不思議そうに首を傾げる。 蓮華の知っている思春はそう簡単に人に心を開かない人物だ。 今でこそ蓮華も気の置けない友人として接する事も出来るが、出会った当時は中々苦労したものだ。 「そうですね。私自身も驚いています」 思春は微笑みながらまた一刀の髪を優しく撫でる。 そして……一刀と交わした“約束”を思い出していた。 『僕、強くなる。皆をちゃんと守れるぐらいに!』 だから剣を教えてくれ。 そう思春に言ってきたのはもう2月近くも前になる。 (ただの子ども……そう思っていたのだがな) 最初に言われた時は流石の思春も面食らったものだ。 だが───鍛錬に付き合ってるうちに、幼いながらもその本気が伝わってきた。 誰かを守るために。 守られるだけではなく、守るために。 「へえ。一刀がそんな事をね…」 蓮華は感心したように言った。 「まあ、その心意気は認めてやっても良い。それに───似ているのです。昔の誰かに」 「誰かにって…誰に?」 蓮華は首を傾げて問うが、思春は静かな微笑みを返すだけ。 「そう。似ているのですよ…」 思春は蓮華に聞こえない程度の声で言う。 「昔の、私と出会った頃の蓮華様に…」 ・名探偵だよ!一刀くん! 「犯人は…祭おねーさまだよ!」 ズビシッ!と一刀は祭に指を突きつける。 「な、何故じゃ…坊!何ゆえ、儂と分かった…」 祭は諦めた様に膝を付いてガクリとうな垂れた。 その瞳には、涙も浮かんでいる。 「だって…」 「厨房でお酒飲んで寝ちゃってたら、誰でも分かるよ…」 厨房には徳利が二つ。そして酔いつぶれて寝ていた祭…。 つまり、そういう事である。 「ふむ…良くやった一刀。それでは、連行!」 「いやーじゃー!お説教はもういやじゃーー!」 刑事冥琳に連行されていく祭。 事件の後とは、かくも空しいものであった…。 ・続!名探偵だよ!一刀くん! 「犯人は…母様だよ!」 ズビシッ!と一刀は雪蓮に指を突きつける。 「そ、そんな…一刀が、私を疑うなんて…」 雪蓮は諦めた様に膝を付いてガクリとうな垂れた。 その瞳には、涙も浮かんでいる。 「だって…」 「そ、その…冥琳おねーさま…母様の名前呼びながらすごい事になっちゃってるし…」 一刀の横には恍惚のピクピクと身体を震わせる冥琳の姿。 そして雪蓮は先ほど賊退治をして来た後…。 つまりはそういう事である。 「ちなみに…まだちょっと収まってないんだよー?」 「ふ、ふえ!?か、母様!?」 「イタダキマース♪がぶー♪」 その後、一刀がどうなったのか…それは誰にも分からない。 ・3度目の正直!名探偵だよ!一刀くん! 「犯人は…蓮華おねーさまだよ!」 ズビシッ!と一刀は蓮華に指を突きつける。 「ふっ…何故、ばれたのかしら!?」 蓮華は自信満々に、不敵に笑う。 「だって…」 「その手に持ってるの…僕のパンツ…」 「我慢出来なかったの…」 蓮華は悲しそうに笑った。 「僕が泣きたいよぉ…」 犯罪とはかくも悲しいものなり。 ・最後は冥琳おねーさまと 「待てーーー!」 「待ってーーーー!」 城の中、冥琳と一刀が並んで走る。 その先にいるのは… 「むう!坊を抱き込むとは卑怯じゃぞ公謹!」 「そうだそうだー!」 酒と肴を抱えて走る雪蓮と祭だ。 「祭殿も雪蓮も飲みすぎだ!いい加減にしないと太るぞ!」 「ギクッ!」 「だ、大丈夫よ!ちゃんと運動してるし!」 「とにかく、お仕事中だし今はだめー!」 「「待てーーー!」」 今日も今日とて、建業のお城はにぎやかでありました。