呉ちんこさん外史 南好日和 1.母様といっしょ 「良い一刀?これは孫呉の存亡を掛けた大事な一戦よ」 「うん!」 穏やかな───しかし、暖かい日差しが降り注ぐ昼下がり。 孫呉の英雄と、その息子は重大な一戦を前に広大な敵軍を睨みつけていた。 背中には籠を。 手には鋏を。 これがこの戦場で有効な唯一の武器である。 「私たちの活躍で戦果は確実に上がるわ…。さあ、行くわよ!」 「あいあいさー!」 「収穫、開始ーーー!」 雪蓮の号令の元、二人が並んで果樹園に飛び出して行く。 敵は李の木。目的の戦果とは李の実だ。 「んー♪今年も甘くておいしいわねー♪」 「おいしーねー♪」 そして一日かけて収穫をお手伝いした親子の腕には、戦利品である李があった。 夕暮れ時、二人で並んで李を齧る。 「来年も行きましょうね?」 「うん!」 そして、冥琳に怒られるのもいつもの事である。 「一刀も!雪蓮のそういうところばかり真似してどうする!」 「にげろー♪」 「にげろー♪」 「待たんかこの駄目親子!今日と言う今日は…!」 こうしてお城の騒がしい一日は過ぎていくのであった。 2.冥琳ねーさまといっしょ 「いいか?経済というものは御せない怪物のようなものだ」 「ふむふむ…」 「需要と供給……つまり買う方と売る方、どちらが過多になってしまっても経済は破綻してしまう」 今、冥琳が講義してくれているのは経済学と呼ばれるものだ。 五歳の一刀にも分かりやすい様に、絵を描いて説明している。 「いいか?まずはこの猫さんが…」 「にゃー?」 「にゃーじゃない。この猫さんがだな」 「にゃにゃー?」 「…ちゃんと聞けにゃー!」 「こ、公謹様…?」 「待て、亞莎。これは…その、講義の一環でな?」 その後、亞莎の誤解を解くのに半日を費やしたという。 「たいへんだにゃー」 「…にゃー。はっ!私は何を!?」 3.蓮華おねーさまといっしょ 「んぅ…zzz…」 ここは東屋のテーブル───穏やかな日差しが差し込む中、一刀はすやすやとお昼寝をしていた。 最近はみんなに付いて戦場を駆け回っていた疲れからだろうか、まだ幼い一刀にとっては、 貴重な睡眠時間である。 と、それを見守る影が一つ───。 「ああ…あの神々しい寝顔…」 柱の影からそっと見つめているのは蓮華だった。 一刀の寝顔を見て恍惚としている。 「あ、あの柔らかそうな頬…た、食べちゃいたいぐらいだわぁ…」 そう言ってフラフラと一刀に近づく蓮華。 実は貞操の危機かもしれない。 「ちょ、ちょっとぐらいなら…そう…か、軽くキスするだけなら…」 段々と一刀の頬に顔を近づけて行く。 そして─── 「んにゅ…ふぁ…zzz」 「!!!????」 一刀が寝返りを打った、丁度のその顔が蓮華の唇と重なる……。 「ふえ?ん…れんふぁおねーさま?」 「…はう!」 「た、大変!蓮華おねーさまがー!」 「ああ…幸せ…」 思春が駆けつけたとき、そこにはやり遂げた顔で鼻血を流しながら倒れている蓮華が居たという…。 4.祭おねーさまといっしょ 「ほれ!何をしておるか!脇が甘い!」 「はいっ!」 一刀は懸命に木刀を振るう。 横で祭が檄を飛ばし、そのつど修正を加えて行く。 一刀はこうして日に何回か祭が暇である時間を見つけ、剣の手解きを受けていた。 「ふむ…。大分と形になってきたな。よし、少し休憩じゃ」 「ふぁ〜い…」 そう言って、一刀は地面にへたり込む。 「なんじゃアレぐらいで。男ならしゃきっとせんか」 「にゃはは…けんしんみたいにいかないなぁ…」 「けんしん?誰じゃそれは?」 「えとね。僕の持ってた漫画にね…」 「ひてんみつるぎりゅう…くずりゅうせん!」 庭の木が、祭の目にも止まらぬ斬撃を受けて見事に切り倒される。 「す、すごーい!」 「かかか!これぐらい朝飯前じゃわい!」 「ほう…。で、この木は誰が弁償するのです?」 「…いや、これは坊がどうしてもと言うからじゃな?」 「さ、祭おねーさまだってノリノリだったじゃないー!」 「…二人とも、正座だ」 「「はい…」」 教訓:幾ら再現出来るからって調子に乗るのはやめましょう。 5.穏おねーさまといっしょ 「いいですかぁ〜?まず兵法の基本は多数を揃えるというところからですねぇ〜」 今日も今日とて穏の兵法講義は続く。 「んふふ〜♪はぁ…それじゃ一刀様ぁ…何時もの奴、やってくれませんかぁ〜?」 「うん。いいよー」 「うふふふ…楽しみですぅ〜? 」 「一刀ったら…最近私とお話してくれないわ。うう…嫌われちゃったとか?」 こうなったら一刀の部屋に直接行こう! 蓮華がそう決心し、部屋の前に立った時…… 「ぅ…ぃぃですょぅ…」 「ここ?ここがいいの?」 「はいぃ…き、ききますぅ〜…」 「すごく気持ち良さそうな顔…」 「だ、だってぇ…♪一刀様が上手いんですからぁ〜…はう!そ、そこですぅ!」 「な、ななななな何をしてるのあなたたちはーーーーー!」 と蓮華が勢い良く扉を開けると、 「あれ?蓮華おねーさま?」 「どうかしましたかぁ〜?」 肩を揉んで貰ってる穏さんが居た。 「本当は肩以外にも…うふふふふふ♪」 6.思春おねーさまといっしょ 「これが我が呉の水軍の誇る船だ」 「ふぁー…おっきいなぁ…」 一刀は目の前の船を見上げて感嘆の声を上げた。 港に浮かんでいるのは、一刀の世界であればジャンクと呼ばれる蛇腹の帆を持った大型船だ。 「ねぇねぇ思春おねーさま。その…」 「いいぞ。乗ってみたいのだろう?」 「うん!ありがとう!」 思春は一刀を抱きかかえ、船のはしごに捕まらせてやる。 一刀は意外とすいすいとはしごを昇りきり、 「とうちゃーく!」 甲板に元気良く降り立つ。 「あまりはしゃぐな。怪我をされては困るからな」 と、そこで思春は気付く。 「お、おい…あのおかしらが笑ってるぜ」 「ああ。あの子ども…何者なんだ?」 「何でも天の御遣いとか言うらしいぜ。あの飛将軍呂布に真っ向から立ち向かって 孫策様をお助けしたとか…」 ひそひそと船員が噂をしている。 もちろん彼らには罪はないのだが… 「貴様ら…たるんでいるな!」 『ひぃ!』 「まったく…わ、私がこいつに甘いのは蓮華様の命令で…その、決して弟が出来たみたいで可愛いなどとは…」 「んにゅ?どうひはの?」 「っ!…ほら、頬に米粒がついてるぞ?」 「んくっ…どこー?」 (((やっぱあの子ども…ただもんじゃねえ…))) こうして一刀の評判は、本人の知らないところで上がっていくという。 7.明命おねーさまといっしょ 「さあ一刀様。一緒にお猫様にご挨拶しましょうねー♪」 「うん!」 ここは街外れの路地裏───普段なら明命も一刀も来る事はないが、 今日は特別な日であった。 「今日はモフモフの日なのです!」 「モフモフの日?」 「そう!お猫様たちが二ヶ月に一回モフモフを許してくれる日…それがモフモフの日なのです!」 そう言って、明命は懐から何やら取り出し… 「さあ一刀様。これを被ってくださいね?」 「ふえ?これって…ねこさんの耳?」 「お猫様と戯れるにはまずはお猫様になりきるのです!」 「な、なるほどー…」 「それじゃあ…モフモフ開始です!」 「で、そのまま時を忘れて…たまたま通りかかった亞莎に起こされるまで寝てたのね?」 「ももももも、申し訳ありませーん!」 「ふにゃー…」 「まあ一刀も幸せそうだしね。それにしても…一刀ったら完全に猫になっちゃってまあ…」 大好きな母様の膝の上で丸くなる一刀くんなのでした。 8.亞莎おねーさまといっしょ 「じー…」 「はうう…」 「じー…」 「むうう…ダ、ダメです!」 「んもーちゃんとやらないと訓練にならないよ?」 お昼休みの庭の東屋───亞莎と一刀は二人でにらめっこをしていた。 発案したのは亞莎だ。人前で見つめられると緊張するのを克服したいらしい。 「でもでも、そんなの僕ぜんぜん気にしないよ?」 一刀が不思議そうな顔で訊ねる。 「そうですね…。皆が皆一刀様の様な人だと良いんですけど…」 はぅ…と、亞莎はまたため息を付いた。 「んー…あ!良いこと思いついた!」 「へ?ど、どうしたんですか?」 「んとね…えい!」 「ふ、ふえーーー!?」 「えへへ…母様がね?どきどきする時はチューしてくれるんだ。そうすると、僕すっごく安心できて…って、あれ?」 「ぷしゅ〜〜〜…はう」 「あ、亞莎おねーちゃん!?」 キスはほどほどに。 9.小蓮おねーちゃんといっしょ 「こーらー!まだ頭洗ってないでしょー!」 「だ、だいじょうぶだもん!一人で洗えるからー!」 お風呂場からどたどたと騒がしい音が聞こえる。 今日のお風呂は小蓮と一刀が一緒に入る番なのだ。 「ほら!つーかーまえたー!」 「ひゃう…」 小蓮に連行されて、強制的に椅子に座らされた一刀は後ろから小蓮にごしごしと頭を洗われていた。 「んもー何でシャオの時だけ逃げるのよ!」 「だって…その…」 (言えないよ…お、女の子と一緒にお風呂に入るのが恥ずかしいなんて…) それは成長の一環であるのだが、一刀は今の環境のせいか、中々言い出せないでいた。 「シャオのこと…嫌い?」 「そ、それは違うよ!…僕、おねーちゃんのこともだいすきだもん…」 「えへへー♪一刀ってば可愛い♪」 こうして、少年の小さな悩みは増えていくのであった。 10.みんなといっしょ 「今日はね。冥琳おねーさまと穏おねーさまと…」 添い寝してくれている雪蓮に、今日一日の出来事を話す。 「そう…。楽しかった?」 「うん!とっても!」 心からそう言える。 一刀にはその事が一番嬉しかった。 雪蓮もにっこりと笑いながら頭を撫でてくれる。 「それじゃ…もう寝ましょうか」 「はーい。おやすみなさい。母様…」 ───明日も、みんなで楽しく過ごせますように。 一刀は神様にお願いして、眠りについた。